コラム | ・つばめの巣づくり |
− つばめの巣づくり −
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〜『つばめが巣づくりをはじめたと、杢平(もくへい)が申しております。いかがいたしましょうか』 路(みち)は夫の背に回って裃(かみしも)を着せながら、つとめて軽い調子で話しかけた。『つばめ?』『巣はこわせ』 夫はにべもなく言った。〜 つばめ(燕)が巣をつくり始めるこの時季になると、上の文章の書き出しで始まる藤沢周平さんの短編時代小説『玄鳥』を思い出します。玄鳥(げんちょう)とはつばめのことです。 路の幼馴染で亡父の剣の弟子だった曽根兵六は、剣才非凡ながら肝心なところで失態を犯す粗忽(そこつ)なところがあって、上意討ちに失敗して周囲から「役立たず」と嘲笑され藩を追われる身となります。 無外流の剣士として高名だった亡父から秘伝の剣を受けついでいた路は、兵六が出立する日の前日、兵六に秘伝を教え終えて思います。曽根兵六も、だしぬけに巣を取り上げられたつばめのようだと。そして、ほんとうに望んでいた幸せとはどんなものだったのか、そして今終わったことのことを。武家の娘の淡い恋心をかえらぬつばめに託して描いた短編です。 *** さて、つばめは、台湾、フィリピン、ボルネオ島北部、マレー半島、ジャワ島などで越冬して、春先に日本に飛来する夏鳥ですね。鹿児島では、4月下旬から5月の上旬になると、つがいのつばめが、田起こしの始まった田んぼから集めてきた泥や枯草を唾液で固めて巣を作り始めます。 それも、決って人が頻繁に出入りする玄関先や土間先の軒下に巣をつくるのです。人が住む環境と同じ場所で繁殖する傾向があるのは、天敵であるカラスなどが近寄りにくいからだと考えられています[1]。 日本では、つばめは水稲栽培において穀物を食べず害虫を食べてくれる益鳥として古くから大切にされ、つばめを殺したり巣や雛に悪戯をする事を慣習的に禁じ、農村部を中心に大切に扱われてきました。「人が住む環境に巣づくりをする」という習性から、地方によっては、人の出入りの多い家、商家の参考となり、商売繁盛の印ともされていました[1]。 そうは言っても、実際に玄関先や土間先に巣をつくられると大変です。巣をつくっている最中には、泥や枯草を落として辺りを散らかします。抱卵期に入り、やがて雛が孵(かえ)って育雛期になったらなったで、餌を落としたり、糞を落したりで、人間は難儀をします。 それでも、きっとこの家は平穏安心な家庭に違いないと当て込んで巣づくりを始めてくれたんだと思うと無下にこわすわけにも行かず、人々は難儀をしながらも、巣づくりから巣立ちまでの2ヶ月前後の間をつばめと共存するのであります。 *** 今週の日曜日、畑に上がろうと思っていつもの通り、自宅近所のMさん宅の前を通ると、「何か置いてあるよ、 100円野菜でも始めるのだろうか?」と助手席の連れ合いがいうので、軽トラックをバックさせて確認してみました。 木戸口(木の開き戸があるわけではありませんが、門や玄関に通じる露地を薩摩地方では木戸と呼びます)に、木製の脚立を出して進入禁止にしてあって、張り紙があります。そして、脇のブロック塀に郵便受けが置いてあって、透明のビニール傘が差してあります。 ・写真を見る → http://www.washimo-web.jp/Information/Swallow.htm ツバメが営巣(えいそう)中です。 玄関付近への立ち入りはご遠慮ください。 ご用の方は上から裏口へお出でください。 ということだったわけです。ご主人に聞いてみると、営巣(鳥が巣をつくること)を始めて1週間近くになるのだそうです。初めてつばめが訪れてきて巣をつくり始めたのだそうです。何だか嬉しくなった光景だったので、カメラを取りに帰って撮影させてもらいました。 そうこうして巣立ちを終えると、つばめのヒナと親鳥は河川敷や溜池(ためいけ)の葦原(よしはら)などに集まり、数千羽から数万羽の集団ねぐらを形成し[1]、 9月に入ると越冬のため集団で南下し始めます。 【参考にしたサイト】 [1]ツバメ − Wikipedia |
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2010.05.12 | ||||
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