レポート  ・映画『旅情』とキャサリン・ヘプバーン   
− 映画『旅情』とキャサリン・ヘプバーン −
1955年製作・公開のイギリスとアメリカの合作映画に『旅情』(原題:Summertime)がありました。イタリアのヴェネツィア(ベニス)を舞台にキャサリン・ヘプバーンが主演した映画です。今から59年前の古い映画ですが不朽の名作といわれます。
 
主題歌は、ロッサノ・ブラッツィが歌った『 Summertime In Venice 』(ベニスの夏の日)で大ヒットしました。ブラッツィは歌います。
 
♪ 〜 私はあの夏の日の夢を見る。ベニスの夏の日だ。カフェが見える。愛に満ちていた君との幸せな日々。アンティック・ショップに立ち寄って土産を買った。橋に立ってボートを見下ろし青空を見上げた。しかし、私は別れが来ることを知っていた。私の心の奥底に残されたもの、それはべニスと君と、そしてあの夏の日だ 〜 ♪
  
               
 ***
   
アメリカの地方都市で秘書をしていた38歳のジェーン(キャサリン・ヘプバーン)は、恋愛下手で、婚期を逸し未だ独身。失った時間を取り戻すため、初めての海外旅行に出かけます。ヨーロッパ各地を回って最終目的地であったイタリアのベニスにやってきました。
 
しかし、お相手も無く、たった一人で市内見物にでかけて、最新の16mmカメラを回すジェーン。構ってくれるのは、どこからともなく現れてまとわりつく浮浪児のマウロだけ。ところが、サン・マルコ広場のカフェで、背中に視線を感じて振り向くとハンサムな中年男性が自分を見つめているのに気づき、慌てて席を立ち去ります。
 
翌日、マウロの案内で名所見物をして歩くうち、通りすがりの骨董店のウインドウに飾られたヴェネツィアン・グラスに目がいきます。そこで店に入ってみると、何と、店のレナートという主人は偶然にも、昨日カフェで彼女を見つめていた男でした。
  
1720年創業の『カフェ・フローリアン』
今もサン・マルコ広場の同じ場所で営業を続けている。
   
うろたえるジェーンは、18世紀の品だというゴブレット(脚付きグラス)を買って、早々に店を出ます。その日の夕方、ジェーンはまたサン・マルコ広場へ行ってみました。期待通りレナートが現れますが、彼はジェーンに先約があるのだと勘違いし、会釈をしただけで去っていきました。
 
翌日、彼女はまた骨董店を訪ねてみます。しかし、店にいた十七八歳の青年からレナートは留守だと告げられます。仕方なく、ジェーンはこの店を記念に16ミリカメラに収めようと後退りして運河に落ち、みじめな恰好でホテルへ帰っていきました。
 
そんな彼女をホテルに訪ねて来たレナートは、夜、広場で会おうと誘います。ジェーンは、その夜初めて幸福感に浸ります。思い出に、花売りのお婆ちゃんからくちなしの花を買います。別れ際、レナートは彼女にキスをし、明夜も会おうと約束します。
 
翌日、彼女は精一杯美しく装って広場へ出かけましたが、レナートの店にいた青年がやって来て、彼が用事でおそくなることを告げます。そして、青年がレナートの息子であること、レナートには妻もいることを知って失望し、広場を去っていきました。
 
ホテルへ追って来たレナートはジェーンに、妻とは別居中だといい、男女が愛し合うのに理屈などは要らないと強く言います。ジェーンはその言葉にほだされ、その夜、レナートの愛を受け入れます。
 

ベニスの運河とゴンドラ
 
そして、それからブラーノ島の漁村で二人だけで過した甘い逢瀬の数日間。ジェーンにとっては、生まれて初めて感じる幸せでした。しかし、ベニスに戻ったジェーンの心にわいてくるのは、このままでは本当に別れられなくなってしまう、という不安と理性でした。

 
”アメリカへ帰ろう、帰らねば。もっと愛してしまう前に”、と決心するジェーン。
 
彼女の乗った汽車が動き出します。その時ホームを必死に走ってくるレナートの姿。レナートの手にはくちなしの花を握られています。汽車は出て行きます。ベニスを離れる汽車の窓から、精一杯身を乗り出して大きく手を振るジェーン。
 
『さようなら、レナート』『さようなら、ベニス』
『この思い出があれば、生きていけるわ』
 
・旅情 予告編
   → https://www.youtube.com/watch?v=tvnxNvm_GaQ
・西村晃「旅情」解説
   → https://www.youtube.com/watch?v=ee9bKCFJKPs
・Summertime In Venice(ベニスの夏の日)
   → https://www.youtube.com/watch?v=hlqWkQ2bw04
  
たまたま、この映画について、俳優の西村晃(にしむらこう、1923〜1997年)さんが解説をしているのを youtubuで見つけました。『それ以上のめり込まないで、ここで自分の気持ちを断ち切るという、あゝいう芝居は、なかなかできるものではありません。やっぱり、世界広しといえども、ヘプバーンの得意とする演技だと思う』と解説しています。
 
そのキャサリン・ヘプバーン(1907〜2003年)は、実生活では、男優スペンサー・トレイシー(1900〜1967年)との26年間におよぶ不倫の恋をまっとうしたことで知られています。
 
1942年、ヘップバーンは映画の共演でトレイシーと運命的な出会いを果たします。以後、二人は26年間に9本の映画で共演しますが、私生活でも付き合いが続きました。敬虔なカトリック教徒だったトレイシーは、妻を尊敬し、子供たちを愛する良き夫、良き父親でした。
 
ヘプバーンは、そんなトレイシーとの26年間の愛を、一度も男を独占しようと思うことなしに、一度も同じ家に住もうと思うことなしに、まっとうしました。1967年に、トレイシーが心臓発作で倒れたとき、彼の死を看取ったのはヘプバーンでしたが、彼女は遺体のそばに一人で10分ほどいて、部屋を去ります。
 
その数分後、トレイシー夫人と子供たちが到着します。ミサにも墓地での葬式にも、ヘプバーンが出席することはありませんでした。そして、葬式の48時間後、ヘプバーンは、トレイシー夫人に弔意を表わしに行ったといわれています。
 
・キャサリン・ヘプバーンの恋
    → http://washimo-web.jp/Report/Mag-Katharine.htm
 
ヘプバーンは、『旅情』で運河に落ちるシーンの撮影の際、目に細菌が入って感染症にかかり、危うく失明寸前まで陥りました。2003年、アメリカ合衆国コネチカット州の自宅で96歳という長齢で亡くなるまで、目の感染症が完治することはなかったそうです。
 

2014.08.13 
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