レポート  ・棲み分け   
− 棲み分け −

進化論といえばダーウィンです。生物は、個体が突然変異によって獲得した生存に有利な身体的特徴を生かして、弱者を淘汰(とうた)して子孫を増やしていく。例えば、ライオンに追われたシマウマは、より足の速いものが子孫を残し、遅いものは淘汰されるというのです。


ダーウィンの進化論は、聖書の記述になじまないこと、またその仮説を科学的定説とするには論証に欠点があることから、進化論を検証する動きが白人社会を中心に再燃しているようですが、正統派進化論として広く信じられていることに違いはありません。


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『棲み分け』(すみわけ)という言葉があります。例えば、「インターネットと雑誌の棲み分け」などと言うように日常的にもよく使いますが、この言葉は、生態学者・人類学者で、日本の霊長類研究の創始者として知られる今西錦司(いまにしきんじ)(1902〜1992年)が提唱した、生態学における学術用語なのです。


goo 辞書で調べてみると次のようにあります。


【棲み分け】〔生〕生物界の構成原理として今西錦司が提唱した概念。近縁の二つの生物種が同じ地域に分布せず、境を接して互いに棲む場所を分けあって生存していること。生存競争による自然選択というダーウィンの進化論に対する批判の意味をもつ。


今西は、カゲロウの生態に関する研究から、カゲロウには3つの種があり、種によってそれぞれ棲む場所が異なると同時に、体の形態も異なることを見つけました。


流れの遅い、砂がたまったところに生息する種は、砂にもぐれるようにとがった頭をしており、流れのあるところに生息する種は、泳ぐのに適した流線型の体をしていて、また、流れの速いところに生息する種は、流れに流されないように平らな体をしているというのです。


今西は、カゲロウの研究を通して、生物は互いに競争するのではなく、棲む場所を分け合い、それぞれの環境に適合するように進化していくという『棲み分け理論』を提唱しました。


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『動物の社会ではいつも弱肉強食が横行しているかのように考えるのは、見方が間違っていて、闘争が絶対にないということではないが、できる限り無駄な闘争や殺戮(さつりく)を避けて、種族維持の万全を図るというのが、私の見るかぎりどうやら変わらぬ自然の原理・原則であるらしい』というのが、 今西の基本的な考え方です。


弱肉強食、勝ち組・負け組み、二極化、一極集中の社会。今回の衆議院選で圧勝した小泉政権に私たちが託したのは、そのような社会の実現なのでしょうか。私たちが小泉政権に託したのは、古い体質を打破して、新しい共存・共生のための環境(枠組み)づくりに着手して欲しいということだと思うのです。


『生物に本来備わっている棲み分け、共生という性質に目を向け、それぞれが日々の生き方を変えて行く努力をする以外にわれわれの子孫が生きる場所はない』という今西錦司の『棲み分け理論』が、今とても輝いて見えます。  (文中、敬称略)


2005.09.28  
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