レポート  ・スローライフについて   
スローライフについて
最近、『スローライフ』という言葉をよく耳にするようになりました。先日、九州大学大学院芸術工科研究院の近藤加代子准教授(環境経済学・近代思想史)の『スローライフとファーストライフの間』と題する講演をきく機会があり、『スローライフ』という言葉が、単に、ゆっくり、のんびり、のほほんとした生活という意味ではなく、きちんとした概念と歴史的経緯を持った言葉であることを知りました。             
 
ご承知の通り、アメリカ資本のフードチェーンが提供するハンバーガーなどに代表される、短時間にできて、即座に食べることができる食べ物・食事(それらは、たいがいが高カロリーでありながら安価である)のことをファーストフードと言います。
 
1986年、イタリア北部ピエモンテ州にあるブラ(Bra )という小さな町に、食生活を見直す『アルチ・ゴーラ』という市民運動の協会が設立されました。これが、『スローフード運動』の始まりだといわれています。
 
1980年代半ば、ローマにマクドナルドが進出してくると、ファーストフードにイタリアの食文化が食いつぶされるという危機感を生み、ファーストフードに対して『スローフード』という言葉が生れました。1989年に、国際スローフード協会が設立され、ブラの食生活運動は、国際的なスローフード運動へと広まり、現在、世界中に83,000人以上の会員がいるそうです
 
スローフードの原則として、具体的な活動における3つの指針が示されています。
 
1.守る
  消えてゆく恐れのある伝統的な食材や料理、質のよい食品、
  ワイン(酒)を守る。
 
2.教える
  子供たちを含め、消費者に味の教育を進める。
 
3.支える
  質のよい素材を提供する小生産者を守る。
 
スローフードは確かにファーストフードに対してつくられた言葉ですが、その運動は、決してファーストフードに反対し、それを排除しようというものではなく、『食はその土地のアイデンティティである』という考えのもとに、伝統の食事、土地の産物、素朴でしっかりとした食材、有機農業、健康によいものなどを守っていこうというものです。
 
このスローフード運動の考え方が食べ物だけではなく、生活全般に及び、衣食住と共に、精神的な充足を求める概念へ発展したのが『スローライフ』です。
 
ファーストライフという概念は、アメリカ、大量生産・機械制大工業、グローバリズム、画一的、効率重視、経済優先、スピーディ、個人主義、競争、家庭・地域生活の市場化、粗食、ファーストフードと言ったキーワードを含みます。
 
これに対して、スローライフの概念は、イタリア、職人文化、地域主義、アイデンティティ、生活重視、スロー、共同体主義、助け合い、家庭・地域生活の維持、美食、スローフードと言ったキーワードを含みます。
 
スローライフは、外国からの受け売りかと言うと決してそうではありません。農耕民族だった日本民族は元来、米作を行なうための開墾や灌漑工事の共同作業、地域内での労働力交換、いわゆる結(ゆい)、水田へ流す水の共同管理など、共同体的な仕組みなしにはやってこれなかった民族でした。そして、四季折々の自然や食べ物、行事を楽しみ、手間ひまをかけて丁寧に暮らす文化がありました。
 
スローフードが、ファーストフードに反対し、それを排除しようというものでないのと同じように、経済活動や国際化の重要性を無視しようというのではありません。経済活動やグローバル化の中でバランスよく、『スローライフ的アイデンティティ』を守って行けないものかという思いです。
 

【参考にしたサイト】
[
1]スローフード - ウィキペディア
 

2008.06.18 
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