コラム  ・百日紅(さるすべり)   
− 百日紅(さるすべり) −
『百日紅』と書いて『さるすべり』と読みます。漢字と読み方がまるで対応していません。字面を追っただけでは、”猿が滑る”という意味に繋がる脈絡が全く見当たらないので、日本語を習い始めた外国人などは、日本語って難しいなと痛感することになるでしょう。
 
さるすべりは、中国南部原産のミソハギ科の落葉中高木です。花は白いのもありますが、ピンクや赤が多いようです。原産地中国の人は、散っては花を咲かせ、散っては花を咲かせながら、7月中旬頃から10月中旬頃までの約 100日間、花を咲かせ続けるので、『百日紅』(ヒャクジツコウ)と名づけました。
 
ところが、日本人は、樹皮が薄ペラッで乾燥して剥げ落ちて幹がつるつるなので、木登り上手な猿でさえ滑るというので、『さるすべり』という名前を付けました(実際は猿はへっちゃらで登るそうです)。それぞれ目のつけどころの違う名前の付け方で、漢字は中国語のままを使い、読み方を日本語名で読むようになったわけです。
 
さて、夏を中心に咲く花には夾竹桃(きょうちくとう)があります。夾竹桃もピンクや赤、白色の花を咲かせ、さるすべりと同様花期の長い花ですが、さるすべりの花は夾竹桃の花より小さくて縮(ちぢ)れている。
 
俳句では夏の季語です。花だけを見れば清涼感さえ感じさせる可愛さがありますが、句に詠まれるのは、じりじりと灼熱の太陽が照りつける酷暑の風景が多いようです。
 
   百日紅ごくごく水を呑むばかり  石田波郷
 
まったく今年の夏も暑くって熱中症対策が欠かせなかったです。特に今年は原発事故の影響で節電が叫ばれる中での猛暑でした。波郷の句をもう一句。
 
   女来と帯纏き出づる百日紅  石田波郷
 
”おんなくと おびまきいづる さるすべり”と読みます。当時の男性は着物を着ていました。夏の昼下がり、暑いので、家のなかでルーズな格好をしてくつろいでいるところに、女性が訪ねてきました。慌てて帯を締め、身なりを整え女性を迎えに出ていきます。
 
   百日紅町内にまたお葬式  池田澄子
 
木枯らしが吹く、凍てつく氷雨が降る極寒の日の葬式も耐えられないですが、真夏の葬式もまた、たまらないです。密集して咲くさるすべり。その紅の花の下を、黒く装った人々が黙々と歩いていきます。
 
しかし、暑いからといってうじうじなどしておれません。暑いけど、やらなきゃならないことは山ほどありますからね。ぼやぼやしていると、秋風の吹く季節がすぐまいりますよ。
 
   百日紅きのうのことは存じませぬ  新田美智子
 

2011.08.24  
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