レポート | ・安全率 |
− 安全率 −
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金属も引っ張れば破断しますし、曲げれば折れます。金属など材料の強さは、引張試験を行って求めます。機械の設計では、引張試験でその材料が破断するときの荷重の、例えば6倍の荷重が作用しても破断しないように部品の寸法を決めます。すなわち、安全率を6にして部品の寸法を決めるわけです。 制限荷重以上の大きな荷重がかかる可能性や、材料品質のバラツキ、材料内部に欠陥のある可能性、設計や工作上あるいは組立上の不確定要素などを考えて、機械の部品は強度的にかなり余裕をもった寸法に設計されます。 産業機械や建設機械などでは、部品が静かな荷重を受ける場合は、安全率を3程度、繰り返し荷重を受ける場合は、5〜8程度、衝撃荷重を受ける場合は10以上にして設計されます。 登山や高所作業で使うロープを「命綱」と言います。このロープが破断すれば、直接人命にかかわります。文字通り命綱です。例えば、体重100kg の人を支えるための命綱には、その10倍の荷重、つまり1,000kg に耐えうる強度のロープを使います。安全率が10ということになります。 安全率を大きくとって強度的に余裕のある寸法に設計すればするほど、部品は大きくなり、機械は重くなります。安全率を5〜10程度にして、航空機を設計したらどうでしょう。とても頑丈な航空機が出来上がりますが、重くて飛び上がらないでしょう。 航空機は、一般に安全率を1.5 程度にして設計されます。出来るだけ軽くなるように、強度的にギリギリの設計がなされるわけです。そのかわり、コンピュータを用いた解析やシミュレーション(模擬実験)によって綿密で正確な強度計算を行って設計され、製作過程では材料欠陥や加工傷などの検査を徹底的に行い、一切の不確定要素を排除して航空機は製造されます。 そして、運用・管理においても、保守・メンテナンス規定や運航マニュアルなどが作成され、それに基づいた厳格な運用・管理が徹底して実施されます。 兵庫県尼崎市で起きたJR福知山線脱線事故(2005年 4月25日発生)で脱線した快速電車は、制限時速70kmのカーブを、時速108km の速度で進入したと報道されています。脱線原因については、今なお今後の解明を待たねばなりませんが、時速約100km で脱線の可能性を指摘する報道があります。 稼動速度100kmを、制限速度70km で割ってみましょう。100km÷70km =1.4 という値が出ます。機械設計経験者として5〜8程度の安全率に慣れっ子になっている著者にとって、1.4 という値は、余裕が無くてとても厳しいなと感じられます。 制限時速を守って運転していたら事故の起こりようもなかったのです。だから、制限時速を越えて運転したことを擁護(ようご)するつもりは毛頭ありませんが、カーブに入る直前の直線走行の制限時速は120km ですから、意図的でなくてもうっかりミスで70kmを越えてカーブに進入することは十分考えられます。 1.4 という数値は、航空機の安全率に近い値です。航空機並みの運用・管理が要求されることを示唆します。少なくとも、電車の速度が制限速度を越えれば自動的に電車を減速させる改良型ATS(自動列車停止装置)、あるいは、さらに進んだATC(自動列車制御装置)の装備が不可欠ですし、運転規定やマニュアルを徹底して遵守する運転や運行が要求されることになります。 機械設計で安全率を大きとるのは、すべてのことをパーフェクト(完璧)に予測するのは困難であり、ミスは起きるものであり、万が一ミスが起きても部品や装置が破損するに至らないよう設計しようという考えに基づいています。 過密ダイヤの中で分秒の遅れも許されず、ミスを犯すと日勤教育と称する再教育を受け乗務手当が削減される。物理的にも運転手の精神面でも余裕のない状況のようです。 ミスは起こるものであり、万が一ミスが起きても重大事故に繋(つな)げないという安全思想の導入と、適度な余裕を持った運行システムの実現が不可欠だと思います。 〔補遺〕 昨日(2005.05.03)の報道によると、JR西日本は、福知山線に新型の自動列車停止装置(ATS−P)の設置を開始したそうです。国土交通省は、その設置完了を確認してから福知山線の運転再開の許可を出す意向のようです。今回の事故が起きる前に設置が完了していたら、犠牲者を出さずに済んだはずです。悔やまれます。 亡くなれた方々のご冥福を心からお祈りし、重軽傷を負われた方々の一日も早い回復を祈念申し上げます。 |
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2005.05.04 | ||||
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