レポート | ・レアアース(希土類) |
− レアアース(希土類) −
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わが国は、ハイブリッド車や液晶、CDやDVDなどの光磁器ディスク、LEDなどの蛍光体といった先端技術に使用されているレアアース(希土類)の輸入を90%以上中国に頼っています。しかし、今年(2010年)4月、中国は出荷を4割削減すると通告してきました。そして、9月に起きた尖閣諸島問題を契機に、希土類の通関を全部差し止めしたとみられます(中国商務省は報復も差し止めも命令していないと述べている)。 これによってレアアースの価格が高騰し、一部では必要量の調達が困難な状況に陥っており、レアアースの問題は、経済問題に留まらず、国の安全保障の問題(安全保障は軍事だけの問題に留まりません)にまで発展しかねない状況にあります。レアアースとはどんなものなのか、問題解決のための動向について調べてみました。 レアアースは英語で、『rare earth elements 』といいます。直訳すると、”希少な地球要素(元素)”ということになりますが、日本語では、『希土類元素(きどるいげんそ)』または単に『希土類』と呼ばれています。 ご年配の方は、1968年(昭和43年)に日立製作所が『キドカラー』という商標・愛称で売り出したカラーテレビのことを覚えていらっしゃることと思います。発売当時、胴体に商品名と日立のロゴを記した飛行船がザ・ピーナッツが歌うCMソングを流しながら日本全国を縦断するといった、当時としては画期的な広告活動が行われたものでした。 このテレビは、ユウロピウムやテルビウムといった希土類(レアアース)をブラウン管の蛍光体材料として用いることによって輝度を上げたもので、当時、赤色の発色の良さを売り物にしていました。『キドカラー』という名前は、『輝度』と『希土』をもじって付けられたものだそうです。 高校時代は化学の時間に『希土類元素』を意識することもなかったですが、高校時代の教科書を本棚から引っ張り出して開いてみると、表紙裏に元素の周期表があって、そこに希土類元素がのっています。 ・元素の周期表とレアアース(希土類元素) → http://washimo-web.jp/Information/RareEarth.htm すなわち、『希土類』とは、下記の17元素からなるグループをいいます。 レアアース(希土類) -------------------------------------- 原子番号 元素記号 元素名 -------------------------------------- 21 Sc スカンジウム 39 Y イットリウム 57 L ランタン 58 Ce セリウム 59 Pr プラセオジム 60 Nd ネオジム 61 Pm プロメチウム 62 Sm サマリウム 63 Eu ユウロピウム 64 Gd ガドリニウム 65 Tb テルビウム 66 Dy ジスプロシウム 67 Ho ホルミウム 68 Er エルビウム 69 Tm ツルウム 70 Yb イッテルビウム 71 Lu ルテチウム -------------------------------------- では、レアアースにはどんな特長があって、先端技術のどんな用途に使用されているのでしょうか。 (1)高磁力磁石(ネオジウム、サマリウム、ジスプロシウム) ハイブリッド自動車用や電気自動車用には、永久磁石を使ったモータが使われていますが、ネオジムを成分とする磁石は、従来使われてきたフェライト磁石と比較して、最大で10倍近い磁力を持っていて、モータの小型化・軽量化が図れ、より効率の良いモータの設計が実現できます。 ハードディスクドライブやCDプレーヤー、携帯電話などでも磁石は必須の材料で、高磁力のレアアースマグネットを使えば、製品の小型・軽量化が達成できるわけです。レアアースマグネットは、MRI(磁気共鳴画像装置)などの医療用機器でも活躍しています。ジスプロシウムは、高い温度でも磁力を保つ性質のレアアースであり、 200℃近い高温になるハイブリッド車や電気自動車のモーターに使われています。 (2)レンズの原料、水素吸蔵合金の材料(ランタン) ランタンは、屈折率が高くて光の分散が少ない高性能のガラスであり、デジタルカメラや携帯電話のカメラ、天体望遠鏡等のレンズに利用され、レンズの小型軽量化・高性能化が達成されています。また、ランタンは近年、燃料電池で水素を貯めておく水素吸蔵合金の材料として注目を浴びています。 (3)研磨剤(セリウム) 液晶パネルやHDD(ハードディスク)に組み込まれるガラス基板は、表面を精密に平面研磨する必要があります。この研磨に使われているのが、セリウムを原料とする研磨剤です。2009年のセリウムの国内需要は希土類全体の45%だったそうですから、セリウムの供給不安が長期化すれば、ガラス基板、引いては液晶パネルやHDDの生産に支障が出ることが懸念されます。 (4)蛍光体、光磁気ディスク、プリンター印字ヘッド(テルビウム) テルビウムは、テレビのブラウン管や水銀灯の蛍光体の材料に利用され、鉄−コバルト−テルビウム合金は、光磁気ディスクの磁性膜の材料として、鉄−ジスプロシウム−テルビウム合金は、インクジェットプリンターの印字ヘッドに利用されています。 その他、排ガスの浄化にセリウム、金属加工のレーザーにイットリウムなど、光ファイバ増幅器にエルビウム、コンデンサにイットリウムが使われています。このようにレアアースは、ハイテクもの作り大国・日本の製造業を支えている材料です。 レアアースの産地は中国、旧ソビエト諸国、アメリカをはじめ、インド、オーストラリア、ブラジルなどに偏在していて、中国の埋蔵量は36%程度といわれます。ところが、実際の採掘生産量は、中国の割合が97%にも達しています。これは、人件費が安い上に、中国(内モンゴル)の鉱山は鉱質が地表面に露出しているような状況で採掘コストが圧倒的に安いことから、中国が独占的な生産シェアを握る結果になったためです。 中国への依存から脱却し、レアアース問題を解決する対策として次のようなことが考えれています。 (1)レアアースに代わる代替品を開発する。 レアアースの使用量を減らしたり、レアアースに代わる代替品を開発するなどの取組みが企業や研究機関を中心に進められています。たとえば、新エネルギー・産業技術総合開発機構と北海道大学は、レアアースを全く使わないハイブリッド車用のモーターの開発に成功し、実用化に期待が集まっています。また、立命館大学の谷泰弘教授の研究グループは、レアアース(セリウム)に頼らないでレンズなどの精密なガラス製品を磨く研磨剤の開発に成功し、実用化を目指しています。 (2)使用済みのハイテク製品からレアアースを取り出して再利用する。 使用済みの携帯電話やパソコンなどのハイテク製品からレアアースを取り出して再利用することが期待されますが、採算に見合うコストで、レアアースだけを分離して回収する技術の実現が課題であり、様々な試みが行われているところです。 (3)中国以外に輸入先を増やす。 カザフスタン(住友商事)2011年生産開始予定、ベトナム(豊田通商、双日)2012年生産開始予定など、一部の商社が海外で鉱山の開発やレアアースを採取する計画を進めています。 アメリカのカリフォルニア州には、1980年代に世界の50%以上のレアアースを産出していた世界有数の鉱山がありましたが、低コストで生産される中国のレアアースに押され、生産休止に追い込まれていました。ところが、一連の高度兵器製造にレアアースを必要としている米国は、レアアース問題が及ぼす安全保障への影響を深刻に懸念し、鉱山操業再開の準備を進めているといわれています。 レアアースの今後の動向に注目していきたいです。 【お便り紹介】− レアアースと資源エネルギーの確保 − ●以上のレポートをお読み頂いた大阪在住の坐忘さんよりお便りを頂きましたのでご紹介致します。 レアアースの話題、とてもタイムリーで面白く拝読しました。中国は日本のみならず、欧米にも輸出禁止をちらつかせていますが、中国の埋蔵量は全体の三割に過ぎず、これまでコスト面から開発してこなかった世界中の山が一斉に動き出しているのはご指摘の通りです。 中国はレアアースを使った製造部品を輸入して完成品に組み立ててから輸出しているので、レアアース使用部品の輸入が滞ると困るのは中国自身となります。備蓄の観点からいえば、日本政府は無策だったようですが、日本の主要企業はこの事あるを見越して早くから備蓄に取り組んでおり大半は1年以上、モノによっては10年分の備蓄があるとも言われており都市鉱山も有望であることから、直近の原料不足で困るのはむしろ欧米の方となっています。 特にドイツなどは大騒ぎしておりますね。ノーベル平和賞で欧米が中国の民主化を促す報復的な措置に出たのも「暴支」に対する危機意識の表れといえます。日本としては2国問題から世界問題になったのを機に、深入りしすぎた中国から撤収する絶好の口実ができたわけですのでこれを活かさない手はありません。 それにしても、中国の矛盾した、この自爆的とも言える動きは反日運動とともに加速しており、これには中国共産党内部の軍部を含む権力争い、既得権益の争奪戦の表面化であるとする指摘が多くなされています。日本はこれらの観測を踏まえて自国の海洋エネルギー資源確保の面からも、尖閣、竹島、対馬、北方領土等を守り抜く方策を講じていかなければならないでしょう。 特にメタンハイドレードは重要です。以前ご紹介のあったメタンハイドレードに対して否定的な論文類は、独立総研の青山繁晴夫妻が調査現場からよく指摘されているように、日本を壜の中に閉じ込めておくための装置のひとつだったのかもしれません。(以上、坐忘さんより) ●坐忘さん、高い見地からのコメント、ありがとうございます。 中国最大したがって世界最大のレアアース鉱床であるバヤン・オボー(白雲鄂博)鉱床は、内モンゴル自治区の包頭(パオトウ)市近くにあります。ご承知の通り、内モンゴル自治区では漢化が進み、自治区という名がつくものの、現在は漢族が80%以上を占めているそうです。内モンゴル自治区は、レアアースの生産量が中国一であるほか、石炭や天然ガスなどの地下資源が豊富であることを念頭に置いた中国中央の漢化政策による結果でしょう。 今年(2010年)10月2日、菅直人首相が東京都内でモンゴル(内モンゴル自治区と国境を接する国)のバトボルド首相と会談し、レアアース開発で協力関係を強める方針を確認したことに対して、中国内では『レアアースの対日輸出を禁止せよ』、『モンゴルから日本への輸出の際、経由地となる中国は高額の税を課せ』などと反発が広がったそうですね。(ワシモより) 【参考にしたサイト】 [1] ウィキペディアの『希土類元素』『キドカラー』などのページ [2] 中国がレアアース輸出規制したって怖くない理由 (My Life After MIT Sloan) [3] 信越レア・アースマグネット(信越化学工業ホームページ) [4]「昭和電工」 液晶向け研磨材 価格4倍 (Metal REsearchi Bureau) [5] アジアを読む「どう確保するレアアース」 (解説委員室ブログ:NHKブログ) |
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2010.10.27 | ||||
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