雑感  ・円周率の面倒くささ   
− 円周率の面倒くささ −

ご承知の通り円周率は、円の直径に対する円周の長さの比率を表す数で、3.141592・・・・・・とどこもでも続くため、通常 3.14 として円周の長さや円の面積を計算します。「円周の長さ=直径×円周率」ですから、例えば、直径が1m の円の円周の長さは、1m ×3.14 =3.14m になります。


平成14年(2002年)4月1日から施行された新学習指導要領によると、小学校では、円周率を 3.14 ではなく3で教えるということになり、物議を醸(かも)し出しました。円周率を3として計算すると、円とそれに内接する正六角形の周の長さは、同じになります。つまり、数値的には円と正六角形の区別がつかなくなります。


新学習指導要領を読んでみると、正確には、事情は次のようです。


(1)円周率としては 3.14 を用いるが、目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮するものとする。


(2)小数の乗法(掛け算)及び除法(割り算)は、1/10 の位までの小数の計算を取り扱うものとする。


(3)桁数の大きい数の計算を扱ったり、複雑な計算をしたりする場面などで、そろばんや電卓などを第4学年以降において適宜用いるようにすること。


となっていて、小学校でも円周率は 3.14 と教えますが、筆算で計算する場合には、掛け算は、小数第一位までの計算しか取り扱わないので、3として計算せざるを得ないわけです。3.14 として計算する場合には、電卓を使うことになります。


整数の掛け算でも筆算は、2桁×2桁、3桁×1桁までしか取り扱いません。それを超える計算は、基本的に電卓を使うということになります。それまで、3年生で教えていた3桁×2桁の計算(例えば 123 × 45)と、4年生で教えていた3桁×3桁(例えば 123 × 456) は、扱わないことになりました。


ちょっと面倒な計算は、電卓を使いなさい。筆算ができなくても、考え方がわかっていれば良いという趣旨だと思いますが、結果として、面倒くさいことは、避けたいという風潮を助長する結果になっていないでしょうか。


仕事や実生活で、面倒くさいことがどんなに多いことでしょうか。面倒くさいことの連続です。経済協力開発機構(OECD)が昨年実施した国際的な学習到達度調査によると、日本の子供たちの学力低下が明らかになりました。また、若者たちの理系離れが深刻なことも指摘されています。


機械技術にしても、電子技術や情報技術にしても、1+1=2という基本を一つ一つ丹念に根気強く、論理的に積みあげて行く面倒で地味な仕事です。例えば、設計に着手するとき、設計者の頭の中にはその完成されたイメージがすで出来上がっていますが、設計とは、その姿の寸法や数値などを一つ一つ決めていって図面で具象化する作業です。


桁数の大きい数の掛け算や割り算を筆算で、間違いがないように一つ一つ根気強く進めていく作業に似ています。もちろん、算数の授業は躾(しつけ)を身に付けさせることがその目的ではないことは、言うまでもないことですが、中学校や高校の数学で方程式を立てそれを解いていく作業がそうであるように、面倒くさいことを嫌がっていては算数や数学は実用できません。


面倒くさいことを端折(はしょ)ることが、「ゆとり」でしょうか。必要なことは面倒くさくても、きちっとやり遂げることの必要性を説き、それを実践させ、やればできるという自信を付けて上げることが必要だと思います。「ゆとり」とは、「出来るまで待ってあげる」、「それぞれに、それぞれが必要とする時間を与えてあげる」ことではないでしょうか。


【備考】
新学習指導要領については「小学校学習指導要領・第3節 算数」を参考にしました。
 → http://www.mext.go.jp/b_menu/shuppan/sonota/990301b/990301g.htm



2005.03.09  
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