レポート  ・焼酎文化の遊び 〜 なんこ   
− 焼酎文化の遊び 〜 なんこ −

旧薩摩藩領内の南九州(鹿児島県および宮崎県南部)では、古くより、焼酎を飲む席での遊びとして、『なんこ』というゲームが行なわれていました。漢字では、南交あるいは箸戦と書きます。
 
対戦する二人が向き合って座り、お互いに三本ずつ『なんこ棒』(堅い木で作られた一辺が1cmの正方形断面で、長さが10cmの棒、なんこ玉ともいう)を後ろ手に隠して持ち、その中の何本かを右手の拳で握り、隠しながら『なんこ盤』に突き出し、両者合わせて何本持っているかを当てる遊びです。
 
お互いの駆け引きと、数を言う際の独特の表現(薩摩地方の方言)の面白さに妙があって、場が盛り上がります。数の言い方は地方によって様々な言い方があったようです。例えば次のようです。
 
 0本
 
 お手ばら(手の中が空っぽ)、おいやらん(誰もいない)
 
 1本
 
 天皇陛下(一人しかいない)、でんしんばした(電信柱)
 
 2本
 
 侍(二本差し)、げたんは(下駄歯)、じゃん、ふたい(二人)
 
 3本
 
 げたんめ(下駄の目=下駄の緒を通す穴)、いんのしょんべん
 (犬は小便をするとき片足をあげ三本で立ってするから)
 
 4本
 
 みやこんじょ(宮崎県都城は、市(し)だから)、かやんついて (蚊帳の吊り手)、しんめ(死に目)
 
 5本
 
 たかじょー(高城(現都城市高城町)の大地主・後藤氏が
 『後藤(ごつ)どん』と呼ばれていたことから『ご』=五)、
 かたて(片手は指が五本)、いつ
 
 6本
 
 けねじゅ(家内中。みんな)
 
また、相手が何本持っているかを言い当てる場合には、ずっ、ひとしこ(自分と同じ数だけ持っている)、あにょ(兄=一つ多い)、おとっ(弟=一つ少ない)などの言い方がありました。
 
対戦者の横には、前もって裁き手によって焼酎が注がれていて、勝った方にも『花』と称してときどき献杯されますが、通常は負けた方が飲むことになっているので、負けが込むと酔いが回って、いよいよ勘が冴えなくなります。
 
団塊の世代が子どもの頃は、大人たちがやっているのを面白く見ていたものですが、大人になる頃には、花見などの席で余興としてやられるぐらいで、日常の酒宴でなんこに興するということもなくなりました。同好会が『なんこ大会』などを開く形で、遊びが引き継がれています。
 
奄美大島の焼酎と言えば、『黒糖焼酎』。鹿児島県の大島税務署管内だけで製造が許されている焼酎です。戦後アメリカの統治下にあった奄美群島が1953年(昭和28年)に返還されたときに、古来から奄美の主要産物であった黒砂糖を原料とした酒類の製造が酒税法で奄美群島(奄美大島・喜界島・徳之島・沖永良部島・与論島)にのみに限って認められ、現在に至っています。
 
面白いことに、その奄美大島でも『なんこ大会』が行なわれているそうです。ブログがあるので覗いてみましょう。
 ・奄美ホライゾン日記blg : なんこ大会 
                → http://amahorizon.exblog.jp/6268701/
 
南交(なんこ)の語源は、『私の手の内にある棒の数は何個』と尋ねることからきていると言い、また南方との交易が盛んであった薩摩藩が取引の際の接待に利用したことに由来すると言われています。
 
鹿児島では、鹿児島弁で五・七・五を詠む『薩摩狂句』が今でも行なわれていますが、狂句や文芸図書などでは、南交(なんこ)より、むしろ箸戦(なんこ)と書く方が多いようです。たとえば、ネット検索してみると、次のような作品があります。
 
    花見茣蓙割箸しゅ折った箸戦玉  城山古狸庵
    (はなんござ わいばしゅおったなんこだま)
 
茣蓙(ござ)を敷いた花見の席。『なんこ』でもして盛り上がろうと思い付いたのは良いが、肝心のなんこ棒がありません。文字通り、割り箸を折っての箸戦です。
 
    裾を割っ女箸戦にゃ爺も負けっ  西郷つぼね
    (すそわったおなごなんこにゃ じもまけっ)
 
裾を割って座った女性(おなご)と箸戦。箸戦の名人と自他共に認める爺も、なぜか勘がくるって、盃をもらうばっかい。うんだもしたん!
 
    上戸下戸が焼酎と煎餅で箸戦しっ 入来院元彦
    (じょごげこが しょちゅとせんべで なんこしっ)
 
下戸は全くの下戸ながら無類の箸戦好き。負けたら煎餅かじるで箸戦。なかなかおおらかな薩摩人ではある。
 

2008.05.14
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