コラム  ・無患子(むくろじ)の実   
− 無患子(むくろじ)の実 −
今年(2014年)も12月に入り、まさに、”もういくつ寝るとお正月 〜 ♪” というこの時季に、奈良市在住のNさんから、期せずして、『無患子(むくろじ)の実』が届いたので、もう感激なのです。
 
”旅先で無患子の実を見つけました。珍しいので、おすそ分け致します”と、手紙が添えてあって、10個の無患子の実が入った小さなおみやげの紙袋には”谷汲山門前”とあります。
 
『谷汲山(たにぐみさん)』は初めて知る名前ですが、調べてみると岐阜県揖斐郡揖斐川町にある門前町で、谷汲山華厳寺は、西国三十三カ所観音巡りの最後、33番目のお寺。参道沿いには約1kmにわたって約40軒のお店が軒を並べるそうです。
 
著者が無患子を初めて知ったのは、昨年の10月のことでした。武者小路実篤の『日向新しき村』を、宮崎県児湯郡木城村に訪ねたとき、無患子谷という谷があったのがきっかけでした。
 
その時、無患子についてレポートを書いたのですが、いまだに『無患子の実』は見ないままだったのです。谷汲山の参道の店先にほったらかしにされたように箱に入って売られていた無患子の実を見つけたNさんは、さもあろうと、著者のことを思い出して、送って下さったのでした。旅先で思い出して頂ける程嬉しいことはありません。

 
送って頂いた無患子の実
 
さて、無患子は、本州中部以西から九州の山や朝鮮南部、台湾、中国、インド、ネパールに自生して、高さが15メートル以上になる落葉高木です。果実は直径2センチの球状で、厚い外皮があって秋には半透明の黄褐色になり、晩秋の落果時には中で黒いまん丸い実がコロコロと音を立てます。
 
    もういくつ寝ると お正月
    お正月には まりついて
    おいばねついて 遊びましょう 〜 ♪
 
果実のなかでコロコロと音を立てる、その黒い実はとても硬く、羽根突きの『追羽根の玉』に使われていました。そして、学名の『 mukurossi』の読みを当てて無患子とし、『子に患い無く』と願を掛けたのでした。
 
日本情緒あふれる『羽根付き遊び』の風景も今は見れなくなりましたが、その情景は、あの名著『銀の匙』で知られる中勘助(なか・かんすけ、1885〜1965年)の詩が各大学の混成合唱団(グリークラブ)で歌い継がれています。中勘助の病身の兄嫁に対するいたわりが綴られた詩です。
 
   混声合唱組曲 「中勘助の詩から」から『追羽根』
      (作詩:中勘助/作曲:多田武彦)
 
五月の病気このかた引っ籠ってた姉もこの頃は不自由ながら
家のなかの用が足せるやうになった。で、いよいよ足ならし
に外へ出ることになり、第一日は筋向ふのお稲荷さんへお詣
りと話がきまった。姉は附添ひによねさんをつれて出かけた。
すぐ戻るといったのが思ひのほか暇がかかるのでどうかと気
づかってるところへベルが鳴った。急いで玄関へ出迎へる。
ゆきさんがあけた格子から競技に勝った子供みたいに得意に
はひりながら境内をまはってきた、といふ。上出来だ。後に
つづいたよねさんが、これをおみやげにと手にもった羽根を
すこしあげるやうにして私にみせた。露店で買ってきたのだ。
 
   いち夜あければ初春の
   夢を追羽子いたしましょ
   羽子板もって紅つけて
   ひとりきなきなふたりきな
   ふるや振り袖裾模様
   帯は金襴たてやの字
   黒のぽっくり鈴ちろり
   見にもきなきなよってきな
   まるいむくろじ白い羽根
   蘂(しん)のすが絲(いと)青や赤
   それ花のよに実のやうに
   ちょんとつかれて空高く
   あがるとすれどくるくると
   つちにひかれて舞ひおつる
   乙女の夢の追羽子を
   吹きてちらすな春の風
 
広島大学グリークラブの合唱を聴いてみましょう。『まるいむくろじ白い羽根』から『吹きてちらすな春の風』までのハモリの盛り上がりが素晴らしいです。
 
・広島大学グリークラブ(広大グリー 男声合唱団)第30回定期演奏会 西条公演(1991.1.15)を聴く
 → https://www.youtube.com/watch?v=34eOu3OnvTk 
 

2014.12.08 
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