レポート  ・モンゴル国遊牧民のための風力発電機   
− モンゴル国遊牧民のための風力発電機 −
先月(2013年3月)、国立都城工業高等専門学校(宮崎県都城市)の技術支援センター統括をされている川崎敬一さんの『モンゴル国遊牧民の生活と風力発電』と題する講演を聴く機会がありました。
 
御承知の通り、モンゴル国の遊牧民は一箇所に定住するのではなく、一年間を通じて大草原を何度か移動し居住場所を変えながら、ゲルと呼ばれる移動式住居で、主に牧畜を行って生活しています。
 
電力がないため、夜はローソクや動物の脂(あぶら)で灯りを得るしかありません。昼間は遊牧の手伝いに精を出す子供たちも、夜になると自由時間が取れるのですが、灯りが乏しいため、本も読めず、勉強もできないのだそうです。
 
1992年、そんな遊牧民の生活をモンゴル国の留学生から伝え聞いた川崎さんは、翌年『モンゴルに風力発電機を贈る会』を発足させ、まず自転車の12Wの発電機を用いて風力発電機をつくってみました。ところが、所定の電力を得るには、毎分3300〜3400回転の回転速度が必要であることが分かりました。これでは、増速機を取付ける必要があり、現実的ではありませんでした。
 
つぎに、テレビ、ラジオを聴くには 300W以上の電力が必要ということで、車の発電機を使って 500Wの発電機を開発しました。しかし、いろいろ検討を重ねた結果、風力発電機の性能は、出力でなく、いかに低い風速で発電できるかがとても重要であるという結論を得、2000年には、秒速1メートルの微風でも発電できる画期的な発電機を開発しました。
 
そして、『モンゴルに風力発電機を贈る会』発足から18年後の2011年、3枚羽根で回転直径が 1.6メートル、重量が約9kgという小型軽量ながら、風速毎秒1メートルの微風でも発電ができ、最大 500Wの発電が可能な風力発電機を開発しました。1台でゲル3〜4張り分の照明をまかなう能力があります。
 
この風力発電機が注目されるもう一つは、自然保護とともに遊牧民の生活様式を前提に開発がなされてきたということです。
 
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太陽光発電も有力でしたが、自然の営みのなかに科学を持ち込まない、 そして少ない設備投資ですむという観点から風力発電が選ばれました。
 
風力発電機の羽根は、通常はプラスチックでつられますが、破損後の廃プラスチックが環境を害する可能性がありました。
 
また、プラスチックだと、『金型』と『射出成形』という特別な設備と技術が必要になります。そこで、羽根は、破損した場合にモンゴルでも削って代替えをつくれるよう木製にしました。木製だと破損したものを薪(まき)として再利用できますし、木材は腐って土に帰るので環境への負荷がありません。
 
軸受だけの極めてシンブルな構造になっているため、故障を起こしにくい。万が一、故障が起きた場合でもモンゴルで簡単に、分解・修理・組立ができる。
 
遊牧民が住居場所を移す際、簡単に運べるよう組立構造になっています。本体と3枚の羽根を取り外して、家財道具と一緒に運び、新しい場所に住居を定めたら、長さ3メートルのパイプに取り付けて立てます。日本からモンゴルに持ち込む際にもスーツケースの中に入れて運ぶことができます。
 
こうして開発された風力発電機が、2011年までに60台以上モンゴルに贈り続けられてきました。そして、都城市に工場を持つ風力発電機メーカーとモンゴルの民間放送会社によって合弁会社が新設され、モンゴルで国内生産するまでになりました。
 
ただし、羽根の回転力を電気に変える発電機の心臓部分は高い加工精度が必要なため、まだ日本での生産に頼らざるを得ないという課題が残っているそうです。
 
『現地 100%生産になればコストダウンも可能。順調に生産が進み、日本へ安価で逆輸入できれば、中央アジアの他の無電化地帯にも広まるとともに、モンゴルの新しいビジネスにつながる』と、川崎さん。
 
参考サイト】
・高専チーム開発の風力発電機、モンゴルで生産へ
(ノボ村長の開拓日誌)
  

 
モンゴルのゲル(Wikipedia より、作者:Japanese Wikipedia user Yosemite) 
モンゴル国遊牧民のための風力発電機(2013.03.09撮影)
     

2013.04.04 
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