レポート  ・モクズガニ、その驚きの生活史   
− モクズガニ、その驚きの生活史 −
著者が住むさつま町では、町内を流れる川内川で落鮎のほかにモクズガニや川エビが獲れ、町の特産物になっています。山奥の渓流までのぼって生活することから別名を『山太郎ガニ』の名で親しまれているモクズガニは、甲幅が7〜8cm、体重が180gほどになり、川で獲れるカニとしては大型で鋏脚に濃い毛が生えているのが大きな特徴です。
 
 ・モクズガニ(山太郎ガニ)の写真を見る
 
『山太郎ガニ』は、野菜や豆腐などと一緒に味噌汁や鍋にして食べると、カニの旨みがダシににじみ出て、コクのある味わいが楽しめるため、昔はそれぞれの家で川に獲りに行って食卓に上がったものでした。最近は、専門の漁師さんの獲ったものが物産館などで売られています。
 
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この慣れ親しんだ、一見平凡に見えるモクズガニのことを何気なくネット検索してみたところ、雄雌とも秋から冬にかけて交尾・産卵のため海まで下るとあり、その神秘的にさえ思える生活史に驚いたのでした。まず、決定的な3つの事実(ウィキペディアより)。
 
(1) 川に生息するモクズガニだが、幼生は塩分濃度の高い海でないと成長できない。
 
(2) アユや川エビなどのように淡水域で繁殖を行い幼生が海域へ流れ下るタイプとは異なり、モクズガニは親がちゃんと海域まで移動し、海域で繁殖を行うタイプである(魚類ではウナギがそうである)。
 
(3) 淡水域で繁殖を行い生活史を全うする個体群は報告されたことはなく、進化する可能性も低いと考えられる。逆に、淡水域に遡上せず、海域で生活史を全うする個体群も報告されたことはない(ウナギでは確認されている)。
 
すなわち、モクズガニは、塩分濃度の高い海と淡水域である河川(それも上流域)の間を確実に回遊するということです。モクズガニが捕獲されるさつま町から川内川河口までは、40km近い距離があります。また、モクズガニが長野県の諏訪湖で採集されたという記録があるそうですが、諏訪湖から新潟県の日本海海岸までは100km 以上の距離があります。
 
あのカニがこれほど長い距離を川の流れに逆らってどうやって遡上するというのでしょうか。そして、海まで下った雄の交尾習性はユーモラスであり、一面哀れでもあり、また微笑ましくもあります。少々長い文章になりますが、ウィキペディアの記事を適宜略中で以下に転載します。
 
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秋になると成体は雌雄とも川を下り、河川の感潮域の下流部から海岸域にかけての潮間−潮下帯で交尾を行う。雄は海岸を放浪する習性が強く、交尾相手の雌を探して数km以上移動することも可能である。しかし雄は繁殖可能な雌を識別することはできず、視覚でのみ相手を確認して求愛行動もなく接近し、雌に抱きつき交尾を挑む。
 
相手をよく確認できないため、場合によっては未成体の雌や雄、他種に抱きつくことさえある。雌は産卵可能な程度に卵巣が発達していないと交尾を受け入れない。海域に出現する雌は必ずしも卵巣が発達していないため、雄を拒絶し、拒絶された雄が諦めて離れるのがしばしば観察される。
 
放卵中の雌も雄を拒絶し、孵化させた後は次の産卵の直前でないと交尾を受け入れない。雌が雄を受け入れた場合は、数十分程交尾が続く。交尾を解いたあと、雄は雌を抱きかかえ他の雄に奪われないよう交尾後ガードを行う。通常ガードは1日以内で終わる。大きな鋏脚を持った大きな雄ほど配偶成功率は高く、他のペアから雌を奪い交尾することや、ガード中に他の雄を追い払いながら雌をしっかりと捕まえておくことができる。
 
卵から孵化したゾエア幼生は0.4mm たらずで、遊泳能力の乏しいプランクトン生活を送るが、この時期は魚などに多くが捕食され、生き残るのはごくわずかである。しかし一方でこの時期の幼生は、浮力を調節したり垂直方向に移動することで潮流に乗り、広く海域を分散すると考えられる。
 
ゾエア幼生は10月や6月の水温の高い時期は2週間程度、冬の12月−2月にかけては2−3ヶ月で5回の脱皮をし、エビに似た形と遊泳法(腹肢による積極的な遊泳)を持つメガロパ幼生へと変態する。
 
遊泳能力の増したメガロパ幼生は、大潮の夜満潮時に潮に乗り、一気に海域から河川感潮域へ遡上する。メガロパ幼生は淡水に対する順応性が備わっており、満潮時以外ほとんど淡水の流れる河川感潮域の上部に着底する。またメガロパ幼生は流れに対し正の走性(流れに逆らうように泳ぐ走性)があるため、瀬や魚道の直下に集中して着底する傾向がある。
 
稚ガニは変態後しばらく成長したのち、甲幅5mm程度になると上流の淡水域へ遡上分散を開始し、おもに甲幅10mm台の未成体が成長しながらかなり上流まで分布域を拡げる。このサイズの未成体は歩脚の長さが相対的に長く、移動するのに適した形態を持っており、垂直な壁もよじ登ることができる。
 
そのため遡上の障害になる河川に作られた横断工作物(堰など)も、ある程度の高さまではたやすく越える事ができ、魚道の護岸壁を水面から上がった状態で移動している個体も各地で目撃されている。未成体は河川で成長し、冬季の低水温期を除き脱皮を続ける。変態後1年で甲幅10mm台、2年で20mm台に達し、多くは変態から2−3年経過したのち夏から秋に成体になる。
 
成体はおもにその年の秋から冬にかけて川を下り、河口域から海域では9月から翌年6月にかけてのほぼ10ヶ月、繁殖に参加する成体が観察される。雌は4−5ヶ月の間に3回の産卵を行い、回を経るごとに産卵数は減少する。繁殖期の終わりになると雌雄とも疲弊してすべて死滅し、河口付近の海域では多数の死体が打ち上げられる。
 
死骸はウミネコなど海鳥にとってはよい餌となる。一度川をくだり繁殖に参加すると、雌雄とも脱皮成長することなく繁殖期の終わりには死亡するため、二度と川に戻ることはない。寿命は産卵から数えると、多くは3年から5年程度と考えられる。
 
これまで、モクズガニは祖先が海域から河川へと分布を拡げ、淡水環境での成長という形質を獲得したものの、歴史が浅くサワガニ類のような完全な淡水環境での繁殖能力を獲得できていない、「まだ進化の途上にある種」とみなされることも多かった。
 
しかし繁殖戦略や幼生の発生と分散から明らかなように、実際にはそうではなく、河川淡水域での成長と海域での繁殖による分布域拡大という、両方向の環境への適応を活用している種であるということができる。(以上、モクズガニ−Wikipediaより)
 
下記の旅行記があります。
 旅行記 ・落鮎のやな漁 − 鹿児島県薩摩郡さつま町
  

2012.10.03  
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