レポート  ・松ヶ岡開墾場 〜 『あなたの中のリーダーへ』より   
 
− 松ヶ岡開墾場 〜 『あなたの中のリーダーへ』より −

庄内藩(今でいう山形県鶴岡市、酒田市)は、鳥羽・伏見の戦いの契機となった江戸薩摩藩邸焼き討ちを行った主力藩であり、戊辰戦争でも薩長を含む新政府軍に執拗に抵抗した藩でした。そのため、新政府軍に降伏した庄内藩の藩主及び藩士らは、厳重な処罰が下るものと覚悟していました。
 
ところが、新政府軍参謀の薩摩藩士・黒田清隆が下した処置は、温情ある極めて寛大ものでした。実はこれらの処置は、陰で西郷隆盛(南洲翁)が黒田に指示して行わせたものでした。後日そのことを知った旧庄内藩の人々は、西郷の処置に感激するとともに、明治になると、旧庄内藩中老・菅実秀(すげさねひで)は旧庄内藩士とともに鹿児島に西郷を訪ね、教えを請うようになりました。
 
明治22年(1889年)、大日本帝国憲法発布の特赦により、西南戦争での西郷の賊名が除かれると、旧庄内藩士らは、西郷から学んだ様々な教えを『南洲翁遺訓』という一冊の本に編集して出版しました。
 
旧庄内藩士らは、本を背負い、全国に配り歩き、その伝導者となりました。その気概は、今も庄内の地で引き継がれています。1976年(昭和51年)には(財)荘内南洲会により酒田市内に南洲神社が創建され、2001年(平成13年)には、境内に南洲翁と菅実秀の対話座像『徳の交わり』が建立されました。
 
一方、鶴岡は、愛読した時代小説家・藤沢周平さん(1927〜1997年)の出身地です。南洲神社とともに藤沢文学の面影を鶴岡に訪ねたいという長年の夢を叶えるべく初めて庄内を訪れたのは、2010年3月末のことでした。
 
山形市内でレンタカーを借りて、妻と二人連れの庄内への日帰りドライブは、県内陸部と庄内地方を結ぶ月山(がっさん)道路を通ります。道路沿いは積雪を残したままでした。車窓から遠望する鳥海山、裸木のケヤキ並木が独自の風景を作っていた酒田の山居倉庫、南洲神社、藤沢小説の舞台を彷彿とさせる鶴ヶ岡城跡、質実剛健な教育文化を今に伝える庄内藩校致道館など、有意義な庄内巡りでした。
 
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しかし、そのとき、鶴岡市内にある『松ヶ岡開墾場』の存在をまだ知らなかったのは残念なことでした。知ったのは、今年(2012年)の2月に機会を得て『庄内憧憬 歴史が醸し出すオーラの漂う場所』と題する西水美恵子さんのエッセイ(Cradle2011年9月号)を読ませて頂いてのことでした。
 
明治7年(1874年)になると、西日本を中心に相次いで不平士族の反乱が起きます。明治7年の佐賀の乱、明治9年の熊本神風連の乱、福岡秋月の乱、山口萩の乱、そして、最大規模の士族反乱となったのが明治10年(1877年)の西郷隆盛率いる西南戦争でした。こうした反乱と対照的だったのが旧庄内藩の取り組みでした。
 
明治維新直後の廃藩置県の折、旧藩中老・菅実秀は旧庄内藩士の先行きを考え、養蚕によって日本の近代化を進め、庄内の再建を行うべく開墾事業に着手、明治5年(1871年)、旧庄内藩士 3,000人が荒野を開墾開拓し、明治7年には 311ヘクタールに及ぶ桑園が完成しました。明治8〜10年には大蚕室十棟が建設され、その後鶴岡に製糸工場と絹織物工場が創設されました。
  
『松ヶ岡開墾場』は、現在、国指定史跡となっており、刀を鍬にかえて大原始林の開墾に挑んだ旧庄内藩士たちの魂を今に伝えているそうです。開墾記念日には、旧庄内藩主・酒井忠篤と松ヶ岡開墾の志を支えた西郷隆盛、開墾開拓に取り組んだ重臣の菅実秀の肖像額を飾り、床の間には西郷隆盛より頂いた『氣節凌霜天地知』の箴言の掛字を掲げて式典が催されるそうです(1)。 
 
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世界銀行副総裁を務めた西水美恵子さんは、現在、イギリス領ヴァージン諸島に在留されながら、世界を舞台に、執筆や、講演、様々なアドバイザー活動を続けておられます。その西水さんは、2009年の春、山形県酒田市に本部を置く東北公益文科大学に客員教授として招待されました。
 
西水さんの新刊『あなたの中のリーダーへ』(英治出版)に、”山形県庄内空港に初めて降り立ったとき、12年前のブータン王国初訪問の際に感じたのと同じ重量感のあるオーラを意識して驚いた”(庄内人の魂より)とあります。
 
東北公益文科大学は、山形県と庄内14市町村が設置費用を負担する公設民営大学で、日本で唯一の公益学の教育・研究を行う大学だそうです。
 
”その(東北公益文科大学の)設立宣言を読み返してみて、また驚いた。ブータンが実践する「国民総幸福量」とまったく同じ公共哲学がそこにあった。設立宣言の一言一言に庄内人の魂がこもる。(中略)ブータンに加えて、この先しばらく庄内通いも続きそうだ。庄内人が掲げる「公益のかがり火」が為す国づくりを夢みつつ・・・”(庄内人の魂より)とあります。
 
いつかまた庄内への旅を実現させて、是非『松ヶ岡開墾場』を訪ねたいと思っています。
 
参考サイト】
(1) 松ヶ岡 日々平安 >> 開墾記念日 式典
    → http://blog.matsugaoka.net/heian/archives/585
 
【備考】
(1)『あなたの中のリーダーへ』(西水美恵子・著、英治出版、2012年5月第一刷発行、定価\1600+税)の書籍紹介が下記のページにあります。
    → http://washimo-web.jp/BookGuide/BookGuide7.htm
(2) 西水美恵子さんのプロフィールは下記のサイトなどにあります。
    → http://www.eijipress.co.jp/sp/kuni/author.php
 


  2012.06.13
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