レポート | ・マドンナのモデル 〜 遠田ステ |
− マドンナのモデル 〜 遠田ステ −
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夏目漱石による中編小説『坊っちゃん』は、1906年(明治39年)、『ホトトギス』第9巻第7号(4月1日発行)の『附録』として発表されました。主人公は東京の物理学校(現在の東京理科大学の前身)を卒業したばかりの江戸っ子気質で血気盛んで無鉄砲な新任教師。 漱石が高等師範学校(後の東京高等師範学校、旧東京教育大学、現在の筑波大学の前身)英語嘱託となって赴任を命ぜられ、愛媛県尋常中学校(松山東高校の前身)で、1895年(明治28年)4月から教鞭をとり、1896年(明治29年)4月に熊本の第五高等学校へ赴任するまでの体験を下敷きに、後年書いた小説です。 その小説『坊ちゃん』に登場するマドンナ。うらなり(英語教師)の婚約者でしたが、赤シャツ(教頭)が手なずけて横取りします。作中のキーパーソンですが、セリフはなく出番もわずか。 名字は遠山。坊ちゃんとの関係は、作中では坊ちゃんの方が一方的に注目しているだけで、彼女自身は坊ちゃんのことを全く知らないという位置づけ(1)。 マドンナついて、例えば作中につぎのようにあります(2)。 *** 『先生、あの遠山のお嬢じょうさんをご存知かなもし』 『いいえ、知りませんね』 『まだご存知ないかなもし。ここらであなた一番の別嬪(べっぴん)さんじゃがなもし。あまり別嬪さんじゃけれ、学校の先生方はみんなマドンナマドンナと言うといでるぞなもし。まだお聞きんのかなもし』 (中略) ところへ入口で若々しい女の笑声が聞きこえたから、何心なく振ふり返ってみるとえらい奴が来た。色の白い、ハイカラ頭の、背の高い美人と、四十五六の奥さんとが並ならんで切符きっぷを売る窓の前に立っている。 おれは美人の形容などが出来る男でないから何にも云えないが全く美人に相違ない。何だか水晶の珠を香水で暖あっためて、掌へ握ってみたような心持ちがした。 *** このマドンナ、松山市の軍人の娘であった遠田ステさんがそのモデルの一人だいわれ、道後温泉本館の『坊ちゃんの部屋』に写真がありますが、確かに可愛い美人です。
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2017.05.02 | ||||
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