レポート  ・貧困とリーダー 〜『国をつくるという仕事』を読む(2)   
 
− 貧困とリーダー 〜『国をつくるという仕事』を読む(2) −
一般的には、フリーエージェント(所属チームとの契約を解消し、他チームと自由に契約を結ぶことができるスポーツ選手のこと)をFA(エフ・エー)と言いますが、工業技術や産業の分野でFA(エフ・エー)というと、ファクトリーオートメーション(Factory Automation、工場の自動化)のことを指します。
  
オートメーション(Automation、自動化)という言葉は、自動車や家電製品が大量生産されるようになった1960年(昭和35年)頃から使われており、1980年(昭和55年)代に入って、ファクトリーオートメーションという言葉が出現しました。
  
ファクトリーオートメーションが、単なるオートメーションと違うのは、コンピュータで自動的に働く工作機械や産業用ロボットなどが、工場内のLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)でつながっていて、無人工場あるいはそれに近いか、人手がうんと少なくてすむ工場が実現されていることです。
  
すなわち、FA(ファクトリーオートメーション)の出現は、人間を、単純労働やきつい、きたない、危険な、いわゆる3Kの仕事から解放してくれました。しかし、それは、人間から仕事を奪うということでもありました。
  
FAが進めば、人間があまり働かなくても、ものが生産できるようになり、その結果、雇用喪失と生産手段の一極集中を招き、将来、所得と富の分配が問題になるのではないかという問題提起が、FA出現の当初からされていました。
  
FA(ファクトリーオートメーション)は、多品種少量生産(多くの種類の製品を少量ずつ作ること)を狙った生産様式であるという点にその特徴があります。いろいろなタイプ(型)のものを、しかも短期間で作ることができるのです。
  
私たちの身の回りにある、例えば携帯電話やデジカメ、車などを考えてみましょう。客の好みに合わせて、実にたくさんの種類(タイプや型)のものが作られています。そして、モデルチェンジが頻繁に繰り返されます。
  
製品寿命が短い(モデルチェンジが頻繁に繰り返される)生産様式は、雇用需要の変化が激しく、雇用需要を見通しにくいことから、パートタイマーや派遣社員など、雇用調整のし易い雇用形態への志向を生み、さらに労働者派遣事業の規制緩和が後押しになって、近年、非正規社員が増加することになりました。
  
正社員並み、あるいは正社員としてフルタイムで働いてもギリギリの生活さえ維持が困難、もしくは生活保護の水準にも満たない収入しか得られない就労者の社会層のことを言う言葉として、ワーキングプア(working poor、直訳すると働く貧困層)という言葉が出現しているのは御承知の通りです(Wikipediaを参考)。
  
(非正規社員は、就労を重ねても知識・技能・技術の蓄積されるような業務には就けず、また能力開発の機会も乏しい状況にあります。わが国の若者層の職業能力が高まらなければ、やがて、経済全体の生産性が低下し、社会にボディブローのようなダメージを与えることになりかねないことが危惧されます。)
  
一方、国際化の面に目を向けると、安い労働力を求めて企業の海外移転が進み、最近はそれに円高が拍車をかけています。国内の産業の空洞化が懸念され、知識集約型産業への転換が叫ばれています。
  
こうした状況のなかで不可欠なことは、(1)雇用の絶対量の確保(雇用の創出)と(2)労働の質的ミスマッチの解消(労働者の職業能力開発)です。これらのことがうまくいかないと、格差が是正されないばかりか、さらに格差が広がり、貧困の問題が低開発国や途上国に限ったことではない、ということになりかねません。
 
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西水美恵子さんの著書『国をつくるという仕事』(2009年4月初版発行、英治出版)は、世界銀行で副総裁まで務めた西水さんが、23年間におよぶ世銀での実務の中で見聞した発展途上国の実態や、頭とハートがしっかりつながり、言葉と行動に矛盾のない、忘れえぬリーダたちのことを綴った回想記で、必読の一冊、お薦めの一冊です。
 
西水さんは、貧困解消は、簡単に言えば、経済成長の果実を分配することであるが、それを可能にする政策は、既得権益を守りたい人々に嫌われると述べ、つぎのように指摘しています。
 
〜 貧しさをなくする術には、わからないことのほうが多い。ただひとつ世界銀行で学んだのは、リーダーの善し悪しが決定的な差を生むという政治の現実だった。(中略)高度成長は、そういうリーダーなしでも可能だ。しかし、所得と富を分配し、格差を抑え、持続的な成長を遂げるには、立派なリーダーが不可欠。途上国に限らず、日本や米国の社会を蝕む格差問題にもあてはまることだろう。『国をつくるという仕事』(水際立つ・・・)の章から 〜
  
【備考
(1)西水美恵子さんのより詳しいプロフィールは、下記のサイトなどに紹介され
  ています。
             → http://www.eijipress.co.jp/sp/kuni/author.php
(2)『国をつくるという仕事』の印税はご本人の意向により、すべて『雷龍の国』
   ブータンのタラヤナ財団に寄付されています。
(3)下記に、タラヤナ財団のホームページ(英文)があります。
             → http://www.tarayanafoundation.org/
(4)下記のレポートがあります。
  ・歩くタラヤナ 〜『国をつくるという仕事』を読む(1)
     → http://washimo-web.jp/Report/Mag-KuniwoTsukuru01.htm  
  ・不変なもの 〜『国をつくるという仕事』を読む(3)
     → http://washimo-web.jp/Report/Mag-KuniwoTsukuru03.htm   
   

  2012.02.29
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