コラム  ・5分間のフライト 〜 喜界空港   
− 5分間のフライト 〜 喜界空港 −
鹿児島から南へ約 380km、奄美大島の東方約25kmに位置する喜界島は、島の周囲が50kmの、サトウキビ栽培を主産業として 8,200人余りの人々が暮らす島です。喜界島への空路は、喜界空港と鹿児島空港間に1日2往復、奄美空港(奄美大島)間に1日3往復の便があって、いずれもJAC(日本エアコミューター)のサーブ機(座席数36のプロペラ機)が就航しています。
 
所要時間は、鹿児島空港からは1時間15分を要しますが、飛行距離が約26km(16マイル)の喜界空港〜奄美空港間は、飛行時間がわずか5分という、マイレージを貯められる路線としては国内最短の路線です。ちなみに、全路線中の最短距離は北大東空港〜南大東空港間(沖縄県の北大東島と南大東島間の路線)の約12km(7マイル)で、世界最短距離の路線でもあるそうです。
 
喜界空港〜奄美空港間はわずか5分のフライトですから、離陸して2〜3分程度経って『ポン』という音とともにシートベルト着用サインが消えたと思った瞬間、何秒もしない間に再び着用サインが点灯して今度は着陸態勢に入ります。
 
JACは、JAL(日本航空)系列の航空会社(本社は鹿児島空港内にある)であるため従業員の制服もJALと同じものが使われています。運航や接客のマニュアルもJALに準拠しているのでしょう、当然座席を倒したり、テーブルを引き出したりする時間はないのに、着用サインが再び点灯して着陸態勢に入ると、『当機はまもなく着陸態勢に入ります。お倒しになったお座席、ご使用になりましたテーブルは元の位置にお戻し下さい。』と、客室乗務員が型通りのアナウンスをするのが面白いです。
 
5分間のフライトの航空運賃は 9,500円ですから、時間単価に直すと、 114,000円/時間となり、かなり割高な運賃ということになります。往復割引とビジネスきっぷ割引(いずれも 8,700円)がありますが、特割や早割の設定はありません。
 
喜界空港の前身は、昭和6年(1931年)に開設された旧海軍の飛行場で、太平洋戦争では前線基地として、そして沖縄に向う特攻機の中継基地として使用された歴史を持つ空港であること、滑走路および喜界空港の周辺に咲き誇るテンニンギク(天人菊)のことを島の人たちは『特攻花』と呼んでいるということは、以前『特攻花』というレポートに書きました。
 
8月15日の終戦記念日を控えた夏のこの時期、喜界空港の周辺そして飛行機が離着陸をする滑走路周辺に一面、直径が3〜5センチの黄色い縁取りのある濃赤色のテンニンギクの花が咲き誇ります。
 
夕刻の薄暮の中を本土から飛来した特攻機はこの飛行場で給油や整備を行い、翌日の明け方沖縄へ飛び立っていきました。死の飛行に飛び立つ若き特攻隊員たちに島の娘たちが情をこめて花束にして贈ったテンニンギクの種子が落ちて芽生え、現在の花園になったのだとか言われています。
 
しかし、テンニンギクを『特攻花』と呼ぶことに対して、真実の特攻花はあくまでも『桜』だという反論があります。確かに、島の娘が特攻隊員に贈った種子が落ちて芽生えたという説がある一方で、戦時中に基地の補修にあたった人の中には、テンニンギクは戦前からここに咲いていて、ヤグルマソウと呼ばれていたと話す人もいるようです。
 
戦後になって、特攻隊員が飛び立った飛行場を赤く染めるテンニンギクの姿に、誰ともなく『特攻花』と呼ぶようになったのかもしれませんが、一面テンニンギクが咲き誇っている風景を目にすると、特攻花と呼び、鎮魂の花、平和を願う花として大切にしたいという島の人たちの思いがわかるような気がします。そんなことを考えながら飛んだ喜界島から奄美大島までの5分間のフライトでした。
 
【備考】次のページが参考になります。
レポート ・特攻花
旅行記・喜界空港(旧海軍航空隊喜界島基地)−鹿児島県喜界町
旅行記 ・喜界島 − 鹿児島県大島郡喜界町
    

2009.08.18  
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