雑感 | ・電子カルテ |
− 電子カルテ −
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30年近く看護師として病院に勤務している連れ合いが、パソコンを教えて欲しいと言い出したのはもう10年余り前のことです。施設を拡充し、医療体制の合理化を推し進めつつあった病院では、接遇改善や
ISO認証取得などのために、職員研修が頻繁になり、そのレポートをパソコンで作成する必要が出てきたというのです。 マイクロソフト社の文書処理ソフトのワード(Word)、表計算ソフトであるエクセル(Excel) がどうにか使えるようになると、今度はプレゼンテーションソフトのパワーポイント(PowerPoint)の勉強を始めました。小集団活動が実施されるようになり、その成果発表会で使う必要が出てきたためです。 そして、3年程前に電子カルテが導入されました。昨年(2012年)秋、その病院で健康診断を受診する機会がありました。例によって、ベッドに寝て心電図を取りましたが、記録用紙がシャーシャーと音を立てて出てくることはありませんでした。レントゲン撮影では、フィルムカセットを出し入れする操作は見られません。撮影された写真のデータが直接電子媒体へ保存されているのでしょう。 血圧や血液検査では、検査結果がオンラインあるいは手入力でパソコンに入力されます。検査が終わって待合室でしばらく待つと、診察室へ呼ばれて先生(医師)による診察です。先生の机の上には縦長のモニターがあり、問診しながら先生はキーボードを操作して、聞きとった内容を打ち込んでいきます。 モニターは画面が直接患者からは見えない角度に置かれていますが、必要に応じて見せてくれます。画面には、心電図やレントゲン写真が表示され、検査結果が図表で示されています。先生は紙にマンガ絵を描いたり、落書きをしたりして説明してくれます。説明が終わると、その紙をスキャナーで読み取ってパソコンに取り込むよう看護師に指示します。 病棟の階に上がってみました。なるほど、看護師さんが、手持ちのノート型パソコン(多くはキャスターに乗せられていました)に看護データや看護記録を入力していました。看護データや看護記録もネットワークのサーバーで一元管理され、医師による診察時に参照されるわけです。 一日分の看護データや看護記録をまとめて入力するとすれば、ゆうに2時間ほどはかかるそうです。医師も看護師も、端末(パソコン)操作が負担になっていると考えられます。加えて、電子カルテの実施には、コンピュータネットワークシステムやソフトウェアなどに設備投資を必要であり、その運用には保守要員の人件費なども含めてランニング・コストがかかります。 その他、通信ネットワークの断絶やシステムダウンに対するバックアップ、機密保持やセキュリティなど、多くのことに配慮を払わなければなりません。このようなリスクやデメリットをカバーして電子カルテを導入することのメリットとは何なのでしょうか。 著者が専門とする機械設計の分野でコンピュータが広く使用されるようになったのは20年ほど前からです。CAD(キャド、コンピュータ援用設計)が導入され、パソコンを使って図面が描かれるようになりました。このコンピュータ技術の導入によって、過去の設計図面や必要な設計情報を瞬時に取り出して活用あるいは参照できるようになりました。 すなわち、仕事の効率が向上しました。それに加えて、柔軟な設計ができるようになりました。例えば、手書きで図面を描く場合、頭の中に思い描いたアイデアを図にするのには限界がありました。あるいは、時間をかけてせっかく描いた図面を描き直すことには消極的になりますが、CADだといくらでも描き直しができますから、納得ゆくまで構想を練れるわけです。 コンピュータの活用によって、設計という仕事の品質が向上したわけです。では、医療における仕事の品質とは何かと考えると、『診察』と『治療』の品質ではないでしょうか。電子カルテの導入によって、過去の診察、治療のデータが即座に取り出せ、あらゆる情報を総合して、的確な診察と治療がタイムリーに実施される。 手間をかけずに効率よくデータを取り出して参照できれば、医師が患者と向き合って人間と人間としてのコミュニケーションをはかる時間もより多くとれるようになるのではないでしょうか。電子カルテの相互活用による遠隔医療や地域医療連携の展開にも期待が持たれます。情報端末の入力インタフェースについては、音声認識や文字認識技術の進展による入力操作の負担軽減に期待したいです。 |
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2013.04.10 | ||||
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