コラム  ・種の保存 〜 果実が色づくということ   
− 種の保存 〜 果実が色づくということ −
6月に入り、ビワ(枇杷)が色づき、旬の時季になりました。ビワといえば長崎県の茂木(もぎ)が全国的に知られていますが、鹿児島県でも温暖な太平洋側気候を利用して、桜島や垂水(たるみず)を中心に栽培されています。わが家の畑の土手に植わっているビワも食べ頃に近づいています。
  
さて、植物の果実は成熟するとなぜ甘くなり色づくかといいますと、それはひとえに動物に食べてもらいたいがためです。果実が成熟すると、カロテノイドやアントシアニンという色素が生成される結果、緑色だった果皮は赤や黄、紫に変化するのだそうです。
  
色づくことで動物(人間を含む)に『食べてもいいよ』というサインを送ると同時に、緑色の中から熟れた果実を見つけてもらい易くしています。そして、食べてもらうためには当然、熟れるにつれて果実は甘くならなければなりません。逆に、未熟なときに果実を食べられては困るので、植物は果実の色を葉と同じ緑色にして見つかり難くし、食べられないよう苦味(にがみ)や毒で防御します。
  
植物が動物に果実を食べてもらうのは、種子をあちこちに運んでもらうためです。すなわち、成熟すると果実が甘くなり色づくのは、植物の『種の保存』のための仕組みであり、一方、動物は、種子をあちこちに運んでやる代わりに、餌として果実を頂いているわけです。
  
鳥についばんでもらえるような小さな木の実などはともかくとして、リンゴや桃(水蜜桃)、ビワなどのように、比較的大きな果実は、拇指(ぼし)対向性(親指がほかの指と向き合うようになっていること)が発達した霊長類(サル類やヒト)にもぎ取ってもらわなければなりません。霊長類はそのために色覚を進化させました。
  
爬虫類(はちゅうるい)や鳥類、昆虫類、魚類などは、赤、緑、青のほかに、紫外線光を感知できる『4色型色覚』を持っていると考えられています。紫外線撮影で撮った花の写真は、蜜が豊富にある花芯部分や花びらの根元の近くに濃いコントラストがあるそうです。このことは、紫外線光を感知する蝶や蜂たちが蜜のありかを見つけるのを容易にしています。
  
また、魚には色とりどりの美しいものが多いですが、魚の色彩を見分ける能力は人間よりはるかに優れているそうです。そのため、ルアー(疑似餌)へ良く反応するものの、微妙な色合いの違いが釣果に関係してきます。また、人間には区別のつかないオス・メスの体の色合いを、魚は紫外線光の反射具合で識別しているそうです。
  
爬虫類から進化した哺乳類(子を産んで乳で育てる動物)の祖先は、初めはこの4色型色覚を持っていましたが、中生代(約2億5000万年前から約6500万年前)、恐竜の餌食となることから逃れるために夜行性になることを余儀なくされ、暗いところでも物が見える桿体細胞(かんたいさいぼう)の機能が進化した代わりに、紫外線光の感知能力が退化し、色覚も緑と赤を区別しにくい2色型色覚となりました。
  
例えば、夜行性である猫は現在でも、色に対して敏感に反応する錐体細胞が人間と比べて1/6しかない代わりに桿体細胞が6倍以上もあるそうです。さらに猫などの夜行性動物の網膜の下には、網膜をいったん通過した光を反射させて再度網膜の視細胞を刺激する輝板という層があります。
  
このように、夜行性になった哺乳類は2色型色覚となりました。ところが、森林に住んで昼間に活動することが多くなった霊長類は色覚を進化させ、3色型色覚(赤・緑・青)を取り戻します。緑と赤の区別がしやすくなり、赤、緑、青に対する感度の組み合せにより、幅広い色を認識できるようになりました。その結果、緑の中から餌となる成熟した果実を見つけことが容易になったのです。それと同時に、苦味と甘味を区別できる味覚を身につけました。
  
ここで疑問がわきます。霊長類がそのような進化を遂げる以前から、果実は熟れたら甘くなり色づいていたのか? いくら果実が甘くなり色づいても霊長類がそのことを認知してくれなければ意味のないことです。しかし、果実が甘くなり色づくことがなければ、霊長類が進化を遂げることもなかったわけですから、おそらく植物と動物は相互に段々と進化し合っていったに違いありません。植物と動物の相互依存の神秘性を感じずにはいられません。
 

2011.06.08  
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