レポート  ・芦北町立星野富弘美術館   
− 芦北町立星野富弘美術館 −
感動なくしては、涙なくしては鑑賞できない星野富弘さんの詩画。多くの人に生きる勇気を与えて止まない詩画。1946年に群馬県勢多郡東村(現・みどり市)に生まれた星野さんは、1970年に群馬大学を卒業し、中学校の体育教師になりますが、クラブ活動の指導中、頸髄(けいずい)を損傷、手足の自由を失います。1972年、病院に入院中、口に筆をくわえて文字や絵を書き始め、1979年には前橋で最初の作品展を開くまでになりました。
 
高崎で「花の詩画展」以後、全国各地で開かれた「花の詩画展」は、大きな感動を呼び、現在も続いています。1991年、群馬県勢多郡東村(当時)に開館した富弘美術館は、2010年11月には入館者が 600万人を突破したそうです。そんな富弘さんの詩画を熊本県の芦北でみれるのは大変うれしいことです。それも、富弘さんの作品が常設されているのは、みどり市にある富弘美術館を除いて全国でただ一ヶ所、芦北町立星野富弘美術館だけです。
 
2013年の1月2日は、昼前から晴れてきたので、国道3号を寄り道しながら熊本まで行ってみようということになり、連れ合いと出かけました。その途中、星野富弘美術館を訪れました。訪ねてみたいとずっと思っていて、初めての訪問でした。
 
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正月の2日目でしたが、幸い開館していて、館長の木村昇さんがいらっしいました。入館一番、どうして芦北に星野富弘美術館なのですかとおたずねすると、上毛新聞社発行の季刊誌「上州風」(25号、2006年秋)に掲載されている、熊本県立美術館副館長・坂田燦(あきら)さん(当時)の書かれた「熊本に星野富弘美術館ができた」と題する記事をコピーして下さいました。まず、その冒頭部分を転載させて頂きます。
 
『始まりは1994年に開いた熊本県立美術館での詩画展だった。そのいきさつにはドラマがある。きっかけは障害者の娘を持つ一人の母親の声。口コミである。当時、東京在住のその娘は上京した母親を車に乗せ、群馬県勢多郡東村(当時)の「富弘美術館」へ。心にしみる詩画を涙して鑑賞。熊本へ帰った母親は高鳴る感動を夫や知人に次々と話した。母親とは当時の福島譲二熊本県知事(故人)の夫人恭子さん。その声は私の勤める県立美術館にも伝わってきた。』
 
労働大臣のとき福祉行政に情熱を傾けた福島前知事は、夫人から富弘作品の素晴らしさを聞き、県身障者美術展に富弘作品の賛助出品を求める交渉を県立美術館に依頼してきました。しかし、坂田さんが富弘美術館に交渉するも答えは「ノー」でした。そこでくじけず富弘さんとの直接交渉が始まりました。雨垂れは石も穿(うが)つ。官民一体の熱意が天に届き、ついに「オーケー」がでました。75点の作品とともに富弘さん夫妻も熊本入りしました。詩画展も記念トークも記録的な大入りになったそうです。
 
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熊本県南の芦北町は、海と山に囲まれた人口2万千人ほどの半農半漁の町です。水俣市に近く、水俣病の影響を受けたことから、重度の身障者施設や福祉施設が十数ヵ所つくられ、福祉の町づくりが続けられていました。熊本県立美術館で「星野富弘詩画展」が開かれた直後、坂田さんを当時芦北町湯浦の温泉施設ヘルシーパーク芦北の所長をされていた木村昇さんが訪ねてきました。木村さんは、坂田さんが教員時代の教え子でした。
 
「施設の2階の1室をギャラリーに改修し美術品を鑑賞する場にしたい、どんな絵がいいでしょうか」と、坂田さんは相談を受けました。坂田さんは即刻「富弘さんの詩画を」と提案し、芦北町の町長さんと木村さんを連れて何回も富弘さん宅を訪ねました。このようにして、ギャラリー開設が実現し、2006年には独立した美術館として芦北町立星野富弘美術館が開館し、木村さんが館長に就任しました。
 
富弘さんの原画やリトグラフ35点ほどを常設展示し、3ヶ月ごとに作品が入れ替えられています。美術館は国道3号から少し入ったところにあります。国道沿いに案内板がありますので、国道3号をお通りになる機会がありましたら寄ってみられませんか。また、若い人たちのデートスポットとしてもおススメです。
 
エントランスホール内の壁に展示してある詩画だけは写真撮影が許されています。
 
  神様がたった一度だけ
  この腕を動かして下さるとしたら
  母の肩をたたかせてもらおう
 
  風に揺れるぺんぺん草の
  実を見ていたら
  そんな日が本当に
  来るような気がした
  
 エントランスホールの詩画
芦北町立星野富弘美術館の外観
 
【参考文献およびサイト】
(1) 坂田燦:「熊本に星野富弘美術館ができた」、季刊誌・上州風
  25号(2006年)、上毛新聞社発行
(2) 芦北町立星野富弘美術館公式ホームページ
  
− 補遺 −
芦北町立星野富弘美術館のエントランスホールの掲示板に、2010年12月15日の熊本日日新聞の切り抜きが貼られていました。記事の見出しに、”「お役立て下さい」のメモ 2000万円の札束届く”とあります。同年12月11日と13日、それぞれ現金1000万円ずつ計2000万円が普通郵便で届いたそうです。送り主は匿名で、消印は埼玉県。「お役立て下さいましたらさいわいです。本当にありがとうございます」と書かれたメモが添えられていたそうです。町では、星野作品の購入や特別展開催にあてる基金創設を町議会に提案する予定であるとありました。
  

2013.01.05  
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