レポート  ・医療保険制度を考える   
(1)シンガポールの医療保険制度
(2)自立心と一体的施策を
− 自立心と一体的施策を −
1963年に、マレーシア連邦から『足手まといだ』と見捨てられるようにして分離独立せざるを得なかったシンガポールは、資源は皆無、食料のみならず水までもが輸入に頼らざるを得ない国です。 420万余の国民の一人一人の自立なくして国が成り立つはずがないということでしょう、シンガポールの年金や医療保険制度は、自分の保障は自前で責任を持たなければならない仕組みになっています。
 
CPF(中央積立基金)という個々人の積立貯金に残金がないことには、老後の保障どころか、病気になっても医療すら受けられませんから、シンガポールでは、ニート(就業、就学、職業訓練のいずれもしていない人)やパラサイトシングル (学卒後もなお親と同居し、基礎的生活条件を親に依存している未婚者)などと言ってはおれないでしょう。
 
『人材のみが資源』というなかで、初代首相リー・クアンユー氏は人材の確保・養成に心を砕き、小学校から始まる厳しい選別・振り分けを基本とする教育制度を作り上げました。物心ついたときからCPFや厳しい教育制度を当然のこととして育つシンガポールの子供たちには自ずと自立心が身に付くのかも知れません。
 
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シンガポールでCPFという制度が成り立つのは、 420万余の国民が、淡路島ほどの狭い土地により固まって住んでいることが大きいと思われます。日本のように、地理的条件や産業構造が地方地方でまちまちであり、経済的に地域差があるような国では、CPFという制度のみで果たしてうまくいくでしょうか。どうしても所得の再配分による社会保障制度を基本とせざるを得ないと思われます。
 
そうなのですが、ニートやパラサイトシングル、国民年金の未加入・未納問題、健康保険料の未払い、何かが起きるとすぐ社会が悪いということになるなど、わが国では色々な面で自立心が薄れてきているように思われます。国民一人一人の自立なしには、再配分もできなくなるでしょう。先ず、自立心を。
 
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国民健康保険の加入者は、以前は自営業や農業従事者が中心でしたが、最近は失業者、アルバイト、低所得者の割合が多くなって、弱者が弱者を支える状況になっているようです。そこで、職業別ごとの医療保険制度をやめて、比較的所得の多い人が加入している被用者保険(健康保険や共済組合保険など)と国民健康保険を一体化して、国民健康保険がより多く抱える低所得者層の医療費を国民全体で負担していこうという考えが示されていますが、一元化には根強い反対論があるようです。
 
相互扶助の扶助とは、『(経済的に)たすけること、援助すること』と辞書にありますが、真に必要な扶助とは、自立心を持って人並みに仕事をすれば、人並みに家庭を持ち、人並みに生活ができ、人並みに医療保険料を支払っていける働く場を提供することだと思います。そのためには雇用施策がとても重要です。
 
正規社員と非正規社員の二極化や所得格差が進み、働けど人並みに暮らせないという人たちが増える一方のなかでの医療保険制度の一元化ならば、整合性のとれた施策とは言えないのではないでしょうか。まさに”労働”と”厚生”の一体的な施策が必要だと思われます。
 

2006.12.13 
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