レポート | ・医療保険制度を考える |
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− シンガポールの医療保険制度 −
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2006年12月3日(日)のNHKスペシャルは、『もう医者にかかれない』と題して、国民健康保険の危機的状況を取り上げていました。『具合の悪いとき、誰もが治療費のことを心配せずに医療機関にかかれるように』という理念のもとにつくられたわが国の医療保険制度ですが、今、すべての人が医療を受けられる体制が崩壊しつつあるというのです。
自立か相互扶助か、2回にわたって医療保険制度について考えてみます。第1回目は、個人の責任を重視し、政府はあくまで個人の自立を手伝いするにすぎないという考えを基本にしているシンガポールの医療保険制度について調べてみました。 § CPF(中央積立基金)制度 § シンガポールには、日本の年金や医療保険制度のような社会保障制度がありません。その代わり、すべての国民が給料の何割かを国の管理下にある個々人の口座に積み立てることが義務づけられているCPF(中央積立基金)という強制積立貯金制度があります。 1955年に創設されたこの制度は、すべての勤労者(被雇用者)が月々の給与の20%を拠出して積み立てるしくみです。また、雇用者も被雇用者に支払った給与額の20%(経済情勢によって10数%に変動したりします)に当たる額を拠出して、被雇用者の口座に積み立てます。 したがって、例えば給与が20万円の勤労者は、毎月8万円(年間96万円)積み立てていくことになります。また、自営業者は年収の6%を拠出して積み立てる義務があります。積立金には年 2.5%を下回らない率で利子がつき、この積立金および利子収入はいずれも非課税となっています。 CPF加入者は、55歳になれば積み立てたお金を引き出して年金に充てることが可能となりますが、55歳になる以前でも、住宅(公共住宅)購入費、教育費、そして医療費など、国が認める用途に限って引き出して使うことができます。具体的には、次の3種類の口座に分けて拠出金は積み立てられ、それぞれの口座ごとに定められた利用目的に応じて引き出すことができます。 (1)普通口座(Ordinary) 拠出金の75%が、この普通口座に積み立てられ、住宅購入、教育費および政府が認めた投資などに使うことができます。 (2)メディセイブ(Medisave)医療補助口座 拠出金の15%が、この口座に積み立てられ、加入者やその直系親族の入院費や医療保険費として引き出すことができます。 (3)特別口座(Special) 拠出金の10%が、この口座に積み立てられ、定年後または不慮の事態に対する備えとして留保されます。 § 医療保険制度 § 上述のように、シンガポールの医療保険制度は、CPFのメディセイブ(Medisave)を基本として、メディシールド(Medishield)とメディファンド(Medifund)という3つの制度があります。すなわち、 (1)メディセイブ(Medisave) 上述のように、入院費や医療保険費として引き出すための強制貯蓄。 (2)メディシールド(Medishield) 命に関わるような大病など、高額な医療費が必要となる場合に備えるための保険制度で、加入は任意です。保険料はメディセイブ基金から支払うことが可能です。 (3)メディファンド(Medifund) 生活困窮者の医療費を補助するための政府拠出による基金。基金の利子が公立病院や医療費の支払いができない患者に支給されます。 シンガポール政府は、政府が過度の福祉施策を行うことは、国民の働く意欲を薄れさせ、福祉に関わるコストを膨れさせたりして、結局は重税という形で大きな負担が国民に跳ね返ってくるとの考えから、自分の保障は自己責任でという政策をとっているわけです。 シンガポールのしくみでは、先ず日本のように健康保険料を払えるのに払わないという状況が起きません。そして、個人ごとに医療費を管理するしくみになっていますから、自分の口座の残高が減らないよう、できるだけ医療費を効率よく大事に使って、より重い病気に備えようという医療の利用抑制やコストの意識が強くなるでしょう。 しかし一方、健康で収入のある人は老後や病気のリスクに備えることはできますが、もともと病気がちな人や収入の少ない人は、そうとも限りません。また、相互扶助のしくみではないので、隣の老人や病人を助けることができません。 § 自立か相互扶助か § 経済が右肩上がりで成長を続け、年金や医療費を利用する人よりも保険料を納める人の方が多かった時代は、収支の辻褄を合わせることが容易でしたが、経済が停滞するなかで、高齢化が進み年金や医療費の支出が増加の一途をたどる昨今、医療の利用抑制やコストに対する個々人の意識がより必要な時代になっていることも事実です。 わが国では、危機的状況にある国民健康保険と、健康保険組合や共済組合など他の公的医療保険との一元化を目指す考えが示されていますが、一元化には根強い反対論もあります。 一元化の問題は突き詰めれば、国民健康保険がより多く抱える低所得者層の医療費を国民全体でどこまで負担していくのかという問題に他なりません。 【参考】 このレポートを書くに当たって、下記のサイトなどを参考にしました。 ・CPFとシンガポールの医療保険制度 ・シンガポールの年金制度 |
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2006.12.06 | ||||
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