レポート | ・菱刈金山と是川銀蔵 |
− 菱刈金山と是川銀蔵 − |
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周囲を九州山地に囲まれた鹿児島県北部の大口盆地の東端に菱刈(ひしかり)町という町があります。この町には、日本の金産出量の約9割を占めている金山があります。鉱業権者は、住友金属鉱山株式会社です。 今年の3月、この菱刈金山で金品位の極めて高い新鉱脈が発見されたと報道されました。世界で最も金産出量が多い南アフリカでも、1トン当たり約5グラムの金含有量であるのに対して、発見された鉱脈は43グラムを含有しているそうです。 『最後の相場師』といわれた是銀(これぎん)こと是川銀蔵(1897〜1992)が、住友金属鉱山株でわずか半年の間に 200億円もの資産を作って長者番付日本一になったのは有名な話です。 菱刈で最初に金山が見つかったのは江戸時代の1750年頃ですが、本格的な開発は昭和43年(1968)の国の調査が端緒で、翌年に住友金属鉱山が鉱業権を取得しました。そして、昭和56年(1981)9月18日の日本経済新聞の朝刊に、「金属鉱業事業団、鹿児島県菱刈金山に高品位金鉱脈を発見」という記事が載ったのです。 当時84歳の是銀は、吸い寄せられるようにその記事を読み進むうち、次第に胸が高鳴り興奮してくるのを感じました。「住友金属鉱山、これは買いだ。この場を逃がしたらワシは一生後悔するかもしれん。生涯、二度とない買い場だ!」 当時、同和鉱業株で儲け損ねて、もう株は一生やらないと誓っていた是銀は、「もう一度株をやらさせてくれ」と妻に頼みます。そして、新聞発表の翌日、9月19日には、大阪空港から鹿児島に飛び、菱刈金山を訪れたのです。 鉱山の現場主任は、たまたま二本のボーリング場所に金鉱があっただけで、採算ベースに乗る高品位の鉱脈が続いているかどうかはわからないと説明します。しかし、朝鮮半島の二ヶ所で金山開発の経験を持つ是銀は、二本のボーリングの現場にまたがって大金鉱脈が続いていると確信し、住友金属鉱山株を買いまくります。 株を買いまくっただけではなく、その当時他人の個人所有になっていた隣接鉱区を買収するよう住友金属鉱山に勧めます。ところが、住友金属鉱山の担当常務は、「わざわざこちらから声をかけなくても最後には泣きついて来て、3000万円か5000万円ぐらいで買えるはずだ」と言って取り合いません。 天下の住友が、相手が破産寸前だからと人の足元を見るような恥ずかしい真似をして、10億円も20億円もの価値があるものを、買い叩こうなど、残酷なことはおやめなさいと腹を立て、「あんたらがその気がないんだったら、ワシが買収してやる」と言って、隣接鉱区をなんと5億円で買ってしまったのです。 是金の買いまくりによって高騰を続けていた住友金属鉱山の株価は、10月半ばには急速にそれまでの勢いを失い、一進一退の相場が続きます。そして、翌年の3月には、信じられない値崩れを起こし、大暴落したのです。 絶対絶命の危機に追い込まれた是銀は、株価の担保率の低下に伴って信用取引の担保を追証するための現金が必要になりました。その金が準備できないと破産は目に見えています。 是銀は、手持ちの住友金属鉱山株のうちの半分を、引き取ってくれと住友金属鉱山に持ちかけます。そのとき是銀が住友金属鉱山側に提示した条件が、買収した隣接鉱区を実費の5億円で譲ろうというものでした。 3月16日、住友金属鉱山はこの取引をのみます。これによって是銀は危機を脱します。そして、なんと翌日3月17日、住友金属鉱山は、日本経済新聞の朝刊に「国内最大級の金鉱開発 住友鉱山8月着手 鹿児島、推定埋蔵100 トン」という見出しで記事を発表したのです。 住友金属鉱山株は一気に高騰し、買い注文の殺到で売買中止になるほどでした。是銀は、半分手元に残していた住友金属鉱山株を最高値で売りさばくことによって、 200億円もの資産を作り、昭和57年(1982)分の長者番付日本一に躍り出たのでした。 是銀が、93歳のとき著した自伝『相場師一代』(小学館)のまえがきに、こう書かれています。「これまでいくつもの出版社から、自伝の出版を依頼されたが、どのような申し出に対しても断ってきた。しかし、世間の人達は、私があたかも株の売買で成功し、巨万の富を得たと思っているであろう。株で成功することは不可能に近い。私は実際、今でもすっからかん。財産も何も残っていない。このことを、著書で警告したいのである」と。 平成4年(1992)に、95歳で亡くなったとき約24億円の株の借金があり、遺族は相続放棄を行ったそうです。最期は、財産を残しませんでしたが、是銀が設立した是川奨学財団は、交通遺児等に奨学金を支給する慈善事業を行っています。 菱刈金山は、その地下に国内最大級の金鉱脈が走っている雰囲気など微塵も感じさせない、何の変哲もない山間の農村風景そのものであって、その中で今日も高品位の金鉱の採掘が静かに続けられています。 (文中、敬称略) ・菱刈金山の風景 → http://washimo-web.jp/Information/Hishikari_Kinzan.htm 【備考】 このレポートは、下記の書籍を参考にして書きました。 『相場師一代』是川銀蔵著/小学館文庫/1999年12月第ニ版発行/定価\600 |
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2005.05.11 | ||||
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