コラム  ・俳句のことば(春)   
− 俳句のことば(春) −
俳句では、句の季節を規定する言葉として季語を一つ入れることになっています。多くは今日私たちが日常使っている言葉が季語とされていますが、なかには俳句独特の言葉の季語があります。そんな春の季語の代表的な例を取り上げてみました。尚、合本『俳句歳時記』第三版(角川書店)を参考にしました。
   
霾(つちふる)
 
春、モンゴルや中国北部で強風のために吹き上げられた多量の砂塵が、偏西風に乗って日本に飛来する現象を気象用語で、黄砂(こうさ)といいますが、これを季語では霾(つちふる)ともいいます。霾風(ばいふう)、霾天(ばいてん)、霾(よな)ぐもりなどの季語があります。
 
   霾るや戦艦大和の眠る海     昇 峰
   烏賊干して呼子の沖は霾ぐもり  小林碧郎
 
鹿児島では、三月に入って黄砂が降る頃になると鹿児島市内を流れる甲突川河畔で春の木市が始まります。折りしも入学試験や転勤辞令などの発表があったりで、悲喜こもごもの時節でもあります。黄砂はそんな頃の風物詩でしたが、最近は、一年を通して黄砂に悩まされるようになりました。
 
蝌蚪(かと)
 
かえるの幼生であるお玉杓子(おたまじゃくし)のことを言います。蝌も蚪も柄杓(ひしゃく)の形をした生き物の意です。春、産卵後しばらくすると孵化(ふか)し、ひょろひょろと尾を振って泳ぐ姿には滑稽味があります。近世以降の俳人に好んで使われてきた季語のようです。  
 
   川底に蝌蚪の大国ありにけり     村上鬼城
   くらやみに蝌蚪の手足が生えつつあり 西東三鬼
 
目借時(めかりどき)
 
蛙の目借時。春の暖かさは眠気を誘います。わけても苗代の設えられる頃に蛙の声を聞いていると、うつらうつらと眠くなります。蛙に目を借りられるからというので、この頃の時候を蛙の目借時といいました。古風な俳諧味のある季語の一つです。
 
   高原にゐてや蛙の目借時    笠原古畦
   目借時狩野の襖絵古りに古り  京極杜藻
 
山笑う
 
冬山のひっそりとしてもの寂しい感じを山眠る、というのに対して、春の山の明るい感じを山笑うといいます。この季語も俳諧味のある季語の一つです。尚、下の句で、杣(そま)とは、山から木材を切り出す人、つまりきこりのことです。
 
   みちのくの山笑ひをり昼の酒     青柳志解樹
   杣(そま)の子に縁談のあり山笑ふ  長田穂峰

 

2010.05.05 
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