レポート | ・文弥節人形浄瑠璃 |
− 文弥節人形浄瑠璃 −
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2011年11月27日、隣り町の鹿児島県薩摩川内(せんだい)市東郷町で開催された東郷文弥節人形浄瑠璃の定期公演を観にいきました。この人形浄瑠璃は、約
300年の歴史を持つ伝統芸能で、17世紀後半に上方で流行した文弥節の系統に属し、人形浄瑠璃創始期のいわゆる古浄瑠璃の面影を伝える貴重な芸能だと言われています。 浄瑠璃(じょうるり)とは、三味線の伴奏にのって、節(ふし)をつけながら物語を語ってきかせる”語り”のことです。もともとは、扇や鼓(つづみ)で拍子を取ったり、琵琶の伴奏で語られていましたが、16世紀室町時代に琉球から三味線が渡来すると、浄瑠璃の伴奏に使われるようになりました。 この時代に、牛若丸と浄瑠璃姫のロマンスを題材にした語り物が誕生し、人気を集めます。奥州を目指して東へ落ちのびる途中の義経は、矢作宿(現岡崎市)で美しい姫君・浄瑠璃姫と恋に落ち、一夜の契りを結びます。しかし、義経は姫と惜別し先を急きましたが、蒲原宿(現静岡市)で重い病になり、浜辺へ遺棄されてしまいます。 神のお告げによって義経の危機を知った浄瑠璃姫は浜へ行き、義経の亡骸を抱いて蘇生を祈願すると、祈りが届いて義経は息を吹き返します。義経は、身分を明かし、涙ながらに姫と別れ、再び奥州を目指して旅立ったのでした。 室町時代末期に主として琵琶や扇拍子を用いて語られた語り物のうち、この浄瑠璃姫物語が特に民衆に受け入れられて好評だったことから、この種の一連の語り物の呼び名を『浄瑠璃』と言うようになりました。 17世紀に入って江戸時代初期になると、浄瑠璃は、人形芝居と結び付き、人形浄瑠璃として人気を集めるようになります。人形浄瑠璃は、浄瑠璃の語り手である太夫と三味線、そして人形遣いの三業(さんぎょう)の三位一体で成り立っている演芸です。 浄瑠璃は、語り手によって節の語りまわしが違ったことから、演奏者の名前をとって呼ばれるようになりました。代表的なものに、上方(関西)で発展した義太夫節(ぎだゆうぶし)、江戸で発展した清元節(きよもとぶし)、新内節(しんないぶし)などがあります。 貞享元年(1684年)ごろ、義太夫節の創始者・竹本義太夫(1651〜1714年)が大阪道頓堀に竹本座を開設し、名作者近松門左衛門(1653〜1725年)と手を組むと、一時期歌舞伎をしのぐ勢いで人気を誇り、発展していきました。 近松の時代から 100年近く経った文化2年(1805年)、淡路島仮屋(現在の兵庫県淡路市仮屋)の出身の植村文楽軒(うえむらぶんらくけん)が、大阪高津新地に小屋を建て、人形浄瑠璃の興行を始めました。これが文楽座の始まりであり、今日、文楽といえば一般に人形浄瑠璃を指す代名詞として使われています。 貞享2年(1685年)、近松門左衛門が竹本義太夫に初めて『出世景清』という浄瑠璃を書き、上演されます。この作品は、これまでの浄瑠璃と一線を画す新しい浄瑠璃だったので、義太夫自身が”当流”と名乗ったことから、それ以前の浄瑠璃を『古浄瑠璃』と呼ぶようになりました。 古浄瑠璃の流派の一つに、延宝(1673〜1681年)の頃、大坂の岡本文弥(ぶんや)が創始した『文弥節』がありました。文弥節は、哀調を帯びた旋律が特徴で、泣き節といわれて人気を博しましたが、宝永年間(1704〜1711年)には衰滅してしまいます。 文弥節人形浄瑠璃は、鹿児島県薩摩川内市東郷町のほかに、新潟県佐渡市、石川県白山市尾口地区、および宮崎県都城市山之口町の四ヶ所で、民俗芸能として受け継がれています。うち、佐渡市と山之口町および東郷町のものが国指定の重要無形民俗文化 財になっています。 ちなみに、文楽以外の人形浄瑠璃で、国指定の重要無形民俗文化財になっているのはつぎの8つです。相模人形芝居(神奈川県厚木市・小田原市)、佐渡の人形芝居(新潟県佐渡市)、真桑人形浄瑠璃(岐阜県本巣市)、安乗の人形芝居(三重県志摩市)、淡路人形浄瑠璃(兵庫県南あわじ市)、阿波人形浄瑠璃(徳島県)、山之口の文弥人形(宮崎県都城市)、東郷文弥節人形浄瑠璃(鹿児島県薩摩川内市)。 山之口町のものと東郷町のものは、島津氏の参勤交代の折、当時京都・大阪で流行っていた文弥節を習い覚えた郷士たちが持ち帰り、あるいは文弥節の師匠を連れ帰ったりして広まったものだと言われています。 東郷町のものは、語り太夫・三味線・太鼓・拍子木各一人と、人形遣いは男人形を一人で、女人形は二人で操ります。人形も素朴であれば、語りや人形の動きもやや単調で素朴なのが特徴とされます。 つぎの旅行記があります。 ■旅行記 ・東郷文弥節人形浄瑠璃 − 鹿児島県薩摩川内市 → http://washimo-web.jp/Trip/Togobunya/togobunya.htm 【参考にしたサイト】 (1) 浄瑠璃 - Wikipedia (2) 文楽 - Wikipedia (3) 浄瑠璃|日本文化いろは事典 (4) 「操り浄瑠璃史」X (5) 浄瑠璃姫物語 - 西尾市 |
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