レポート  ・ワニの脳とネズミの脳と   
− ワニの脳とネズミの脳と −
東北大学加齢医学研究所、川島隆太教授・監修のニンテンドーDS対応のゲームソフト『脳を鍛える大人のDSトレーニング』が大ヒットするなど、世間の『脳』に対する関心が高まっています。また今、木村拓哉さんが警察庁科学警察研究所の脳科学者に扮する連続ドラマ『MR.BRAIN』( TBS系)が話題になっていますね。
 
東京大学客員教授で編集工学研究所所長の松岡正剛先生が、帝塚山学院大学・人間文化学部の学生向けに行った講義をまとめた『17歳のための世界と日本の見方』(春秋社)という本に、『三つの脳の矛盾が文化を生んだ』という興味ある記事があります。
 
私たち人間が持っている脳は、もちろん動物のなかで最も発達した脳ですが、じつはその奥には、進化の途中のまま止まってしまった『ワニの脳』と『ネズミの脳』が残っているのだそうです。『ワニの脳』は、人をやっつけたい、攻撃したいという本能をもたらす残忍な脳で、『ネズミの脳』は、ずるがしこく、狡猾(こうかつ)で、自分だけは得したいという考えをもたらす脳です。
 
調べてみると、人間の脳は、おおまかには、『脳幹』『大脳辺縁系』『大脳新皮質』の三層構造からなるそうです。ここで、『大まかな脳の構造』について、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスのサイトを参照させて頂きましょう。
 
『大まかな脳の構造』(福田忠彦先生の生体情報論より)をみる
  
一番下にある『脳幹』が、進化の過程において最も古い年代に発生した、ワニやヘビなど爬虫類(はちゅうるい)にもある脳で、心拍、呼吸、血圧、体温などを調整する基本的な生命維持の機能を担い、食欲、なわばり、仲間づくりなど、動物が持っている自己保全のための本能をつかさどります。
 
脳幹に次いで進化したのが、鳥類や下等哺乳類にもある『大脳辺縁系』で、恐怖や怒り、嫌悪、愛着など、動物でも持っている感情や種の保存の目的すなわち生殖活動などをつかさどる脳です。
 
最も新しい年代に発生したのが、『大脳新皮質』の両半球(右脳・左脳)であり、言語機能と記憶・学習能力、創造的思考能力、空間把握機能などをつかさどる、ヒトと高等哺乳類において特に発達した脳です。
 
松岡先生いわく、ヒトは残忍な『ワニの脳』と狡猾な『ネズミの脳』を進化途中で充分に処理しきれないまま残して、その上に理性的な『ヒトの脳』をつくっていったわけである。『ヒトの脳』がなんとか『ワニの脳』と『ネズミの脳』をコントロールしているのであるが、理性的な大脳新皮質の働きがうまくいかなくなると、たちまちにして残忍な脳や狡猾な脳が、理性の脳を突き破って出てきてしまう。
 
ヒトが理性の脳によって、本能のままにふるまおうとするワニやネズミの脳をコントロールしようとしたところから、宗教が誕生し、舞踊や哲学、文芸など人間の文化の歴史が始まった。
 
自分の脳の中に、『ワニの脳』や『ネズミの脳』が残っているのだと思うと、やはり人間でいたいという気になりませんか?
 
【参考書籍、サイト】
〔1〕松岡正剛著『17歳の世界と日本の見方』(2009年2月25日第22刷、春秋社)
〔2〕ポール・マクリーンの脳の三層構造仮説
〔3〕慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス・生体情報論
 

2009.05.26  
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