レポート  ・綾の照葉樹林   
− 綾の照葉樹林 −

森林には、(1)水循環系を維持し洪水や渇水を防ぐ、(2)生態系を保護し生物を養う、(3)土壌を作り土壌を守る、(4)大気を浄化する(二酸化炭素を吸って酸素を作る)という働きがあります。地球環境保全の一環として、森林を守る取組みがいま関心を集めています。


日本の森林には、落葉広葉樹林と照葉樹林があります。落葉広葉樹林は、年平均気温が 6〜13℃の地域の森林で、北限は北海道南西部、南限は南九州です。秋から冬にかけて落葉し、秋には美しく紅葉します。ブナ、ミズナラ、カツラ、カエデ類などが主な樹種です。1993年(平成7年) にユネスコの世界遺産に登録された白神山地のブナ林が落葉広葉樹林の代表です。


一方、照葉樹林は、年平均気温13〜21℃の地域の森林で、四国、九州、本州中南部がこの地域に該当します。冬でも葉を落さない広葉樹林で、葉の表面に光沢があって光っているものが多いので照葉樹林といわれています。シイやカシ類、クス、ツバキなどが主な樹種です。


『東の横綱が白神山地のブナ林なら、西の横綱は綾の照葉樹林』と言われます。宮崎県綾(あや)町は、宮崎市から西へ22km、車で40分のところにあります。町の総面積の8割が森林で田畑はわずか8%に過ぎない人口7,600人の小さな町です。


綾町の総面積の8割を占める森林の30%が、照葉樹林を中心とした広葉樹の天然林で、多種多様の植物が繁茂し、希少種のクマタカ、イヌワシをはじめ色々な野鳥や獣類等が生息する野生動物の宝庫だといわれています。


その照葉樹林のほとんどが国有林で、1967年(昭和42年)に国有林の伐採と土地交換の計画が持ち上がりました。そのとき、綾の人々は町民一丸となって住民運動を起こし、町民の90%の反対署名を集めて照葉樹林を守りました。伐採は中止され、東洋一と言われる現在の綾の照葉樹林が残ったのです。


照葉樹森を守ったことから町民の仕事や業務も大きく変らざるを得なかったそうです。1986年(昭和63年)に全国初の「自然生態系農業の推進に関する条例」が町で制定され、自然の摂理を尊重した農業の推進がスタートしました。


照葉樹森に育まれた綾の自然環境は、各方面から評価され、九州中央山地国定公園(環境庁長官)、21世紀に残したい日本の自然百選(森林文化協会)、森林浴の森100選(緑の文明学会)、あおぞらのまち40選(環境庁)、水源の森100選(林野庁)、日本名水百選(環境庁)、水の郷100選(国土庁)に選ばれています。


有機質肥料をふんだんに使った有機野菜、陶芸・木工品・竹細工・ガラス工房・染織物などの手作り工芸、照葉樹林とそれに通ずる世界一の照葉大吊橋、馬事公苑で開催される綾競馬、約670年前の日本最古の山城として再現された綾城、お酒のテーマパーク・酒泉の杜などがあり、人口7,600人の小さな町には、年間110万人もの観光客が訪れます。


そうした綾の照葉樹林をユネスコの世界遺産に登録しようという活動がなされているのですが、綾町ではいま、鉄塔問題が起きているのです。50万ボルト送電敷設のため、高さが60m〜100mの巨大鉄塔を建設しようとする計画に対して、『ユネスコ「生物圏保存地域」登録と将来の世界遺産登録のために、「綾・照葉樹林帯」での鉄塔工事の見合わせと再検証をお願いします。』という署名活動などが行われています。
◆「綾の照葉樹林」を世界遺産に
           → http://www.bunkahonpo.or.jp/aya/index_jpn.htm


綾の照葉樹林がユネスコの世界遺産に登録され、東洋一を誇る照葉樹林が世界の財産として永く残って欲しいと思います。


2004.10.20  
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