雑感  ・佇まい   
− 佇まい −

『佇(たたず)まい』という言葉があります。辞書で引くと、英訳に atmosphere(雰囲気)とありますから、『建ち(立ち)姿が醸(かも)し出す雰囲気』と言えるでしょう。
 
カメラを持って出かけるようになって3年が過ぎましたが、絶妙なアングルで的確なシャッターチャンスをとらえてシャッターを押せる感性もなければ、技術もなく、使っているカメラもそれ用のものでないので、芸術的な写真が撮れるはずもありません。
 
したがって、著者がホームページにアップロードする旅行記などの写真は、あくまで風景を伝える写真に過ぎないのですが、それでもできるだけ良い佇まいを捕らえたいという思いに変わりはありません。
 
ファインダー(液晶モニター)を覗くようになってから分かってきたことがあります。それは、折角の風景なのにその佇まいを壊す人工的なオブジェクト(物)が結構多いということです。
 
先ずあげられるのが自動販売機です。ある伝統工芸品を復元して製作しているところでは、静かな山あいの公園の一角に明治・大正時代を彷彿とさせるレトロチックな建物を建てて、その中に工房と展示室兼売店が置かれています。
 
しかし、その建物の正面玄関脇には、あの真っ赤な、しかも大型の自動販売機が置いてあるのです。どこから写しても自動販売機が視野に入ります。
 
自動販売機を設置するときに検討されたのは、自動販売機の営業効率のことだけで、それが佇まいに及ぼす影響については思いも及ばなかったのかも知れません。
 
つぎに、例えば記念館とか祈念館とかの名のつく中小規模の公共の建物でよく見受ける光景です。建物内が完全禁煙とされるのは大歓迎ですが、その代わりに建物の玄関入口に灰皿が置かれ、そこが喫煙場所になっているのです。
 
建物はそれなりに嗜好を凝らしたデザインで造られているのに、その真正面は喫煙する人たちの姿が絶えないため、シャッターを押すに押せないのです。
 
瀟洒(しょうしゃ)な造りの和風のお店などで多いのがビニールホースです。散水した後、蛇口付近に無造作に巻いて置かれた鮮やかな緑色や青色のビニールホースが風景の中に露(あら)わです。
 
その他、観光地の折角の風景の中の路上駐車の車、おびただしい数の幟(のぼり)や騒々しい呼び込み。電線や交通標識などなど。
 
自動販売機や灰皿、ビニールホースなどが必要ないと言っているのではありません。佇まいに考慮を払って設置して欲しいと思うのです。
 
今回出かけた旅先で思い掛けず、佇まいに考慮を払った光景に出会いました。馬籠では、自動販売機は小型のものにし、塗装をいくらかシックな茶色に塗り替え、露出する部分を少なくするため木枠にはめられていました。
 
また、飛騨高山では、たばこの自動販売機が格子窓にはめ込まれ、古い街並みと調和がとられていました。
 → http://washimo-web.jp/Information/atmosphere.jpg
 
これらの観光地は、伝統的建造物群保存地区に選定されており、また外国人観光客、特に環境の美化にうるさいドイツ人などの目に晒(さら)されることもあって、意識して観光の品質向上の取組みがなされているのだと思いますが、その気さえあれば、自動販売機も灰皿もビニールホースも、佇まいと調和して共存できるはずです。
 
著者の住む南九州では、九州新幹線部分開業の効果があって、観光客が増えたようですが、また訪れたいと思って頂けるよう木目細かな接遇とともに、佇まいの保全に万全を尽くして欲しいと思います。

2006.05.17
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