コラム  ・甘柿、渋柿   
− 甘柿、渋柿 −

正岡子規の有名な俳句「柿食えば 鐘が鳴るなり 法隆寺」にも詠われているように、柿は秋の風物詩ですね。
 
■富有柿派、それとも次郎柿派?
 
岐阜にお住まいの風眠さんから、お便りを頂きました。「岐阜は富有(ふゆう)柿の産地なんですが、これが最高に美味しい柿なんです。岐阜に嫁ぐまでは実家の次郎柿が最高!って思ってましたが、今は富有柿の虜(とりこ)です。」
 
次郎柿といったら、静岡県や愛知県、三重県が産地のようですね。次郎柿は、富有柿と肩を並べる甘柿の代表品種ですが、富有柿のやわらかい食感に対して、次郎柿はカリカリとした歯触りが特徴で、「富有はあごで食べ、次郎は歯で食べ、たねなしは舌で食べる」と言われているようです。
 
■美味しかった伽羅柿
 
著者も、小さい頃から柿は好物で、今でも自宅の敷地内に3本の富有柿(樹齢20〜30年程度)と1本の甘柿の古木が植わっていますが、今年は残暑とカメムシの異常発生で、熟す前にすべて落ちてしまいました。
 
以前は、「伽羅(きゃら)柿」の古木が敷地内にありました。佐賀県原産とされる柿で、九州の家々にはよく植えられていた柿です。果肉に黒褐色の筋が入り、ちょうど仏像などを彫る伽羅と呼ばれる高価な木材のようであることからそう呼ばれるようになったそうです。
 
とても美味しい柿で好きでしたが、果肉の種子が4〜5個以上にならないと渋が抜けない「不完全甘柿」で、熟し過ぎると渋が戻るという性質がありました。佐賀県から毎年、皇室に献上されているようですが、富有柿に押されて、最近はあまり見かけなくなりました。
 
・『伽羅柿』について
 → http://www.saga-ed.jp/
workshop/edq01475/nkyouzai/kyouzai/kyaragaki/kyaragaki.htm
 
渋柿はなぜ渋い?
 
柿には、甘柿と渋柿があります。渋柿が渋いのは、果肉に含まれる「タンニン」という成分によりますが、甘柿が渋くないのは、タンニンが含まれていないからではなく、タンニンの状態が違うためらしいです。
 
渋柿に含まれるタンニンは、可溶性(水に溶ける性質)であるため、食べたとき口の中で溶けて、それが舌に伝わって渋みを感じます。一方、甘柿に含まれるタンニンは、不溶性のため舌に伝わらず、渋みを感じることがありません。
 
不完全甘柿である伽羅(きゃら)柿が、種子が4〜5個以上になって甘くなると果肉に黒褐色の筋が入るのは、溶性タンニンが不溶性になった後、酸化したのがゴマ状になって現れるからだそうです。
 
■「あおし柿」ってわかりますか?
 
南九州では、渋を抜いた渋柿のことを「あおし柿」といいます。ネット検索してみても80件程度しか検索されませんので、南九州や佐賀、宮崎、大分など、九州の一部で使われている言葉のようです。中国地方や関西では、「あわし柿」と呼んでいるようです。
 
一般に、渋抜きには炭酸ガスやアルコールなどが用いられ、これらを加えて密封すると、柿が酸素不足のため正常な呼吸ができなくなり、この際発生するアルデヒドなどの影響で、可溶性タンニンが不溶性に変わって渋く感じなくなるのだそうです。
 
渋柿のヘタに焼酎を付けてビニール袋に入れ、焼酎を噴霧して密閉し、日当たりの良い縁側などにおいて、35℃ぐらいの温度で一週間程度寝かせて渋を抜く方法などがありますが、著者の住む町の紫尾(しび)温泉では、温泉に浸けて渋を抜く方法が名物になっています。
 
・『旅行記 ・紫尾温泉のあおし柿 − 鹿児島県さつま町』
     → http://washimo-web.jp/Trip/Shibi/shibi.htm
 
渋柿を 10kg(個数にして 100個弱)ずつ網袋に入れ、温度が37℃ほどに保たれた専用の露天浴槽に、夕方5時半から翌朝7時半まで浸けておきます。一晩ゆっくりと温泉につかった「あおし柿」は、ほのかな硫黄の香りと独特の甘みがあって人気です。
 
"入湯料"は、一袋 300円で、最盛期には、県外から送られてきて入浴する柿もあって、1トン(100袋)近くが入浴する晩もあるそうです。
 
【編集後記】
「あおし柿」の話題で、静岡県富士市にお住まいのカレワラ様から、とても心豊かになるお話を頂きました。
 
タンニンも不溶性なら渋くないわけですね。
私はこの「タンニン」で染め物をします。
渋柿のまだ青い、可溶性タンニンがピークの時期に(?)木槌でたたきつぶして
被染物に揉み込みます。
これが陽に当たるとオレンジ色に発色し摩擦に強い繊維になります。
渋柿も偉いですね。木に残っても秋の日差しを浴びて発色したのもきれい。
                                (〜富士市のカレワラ様から)
 

2005.11.09
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