俳句鑑賞 | ・紫陽花 |
− 紫陽花 −
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今年も紫陽花の季節になりました。降り続く長雨の中で清楚に佇(たたず)む藍色やライトブルーの紫陽花。初夏とはいっても終日雨にさらされたら、からだの芯まで冷え切ってしまうでしょう。 それでも、逆らいもせず、ただ一途に雨の中に佇んで咲いている姿には、『辛抱強い愛情』という花言葉がぴったりなのですが、ところがやがて、青紫、紅紫、ピンク、そして赤へと妖艶に色を変えていきます。人は『移り気』という花言葉を与えました。 そもそも紫陽花の、花に見えるのは3〜5弁の『がく』の集まり(装飾花)で、中央に粒つぶに見える小さなのが本当の花(普通花)です。 紫陽花の色が移ろうのは、がくの色がアルミニウムや鉄分などの金属イオンを吸収すると青色に変わることに起因しているようです。 酸性の土壌はその中の金属イオンを溶出させやすいので、紫陽花はそれを吸収して、青色の色素を強く出すわけです。そして、土壌が中性からアルカリ性へ変わるにつれて、金属イオンの溶出が少なくなり、逆に赤色の色素が強く出るようになります。 紫陽花は、日本の固有種でもともとヨーロッパにはなかった花でした。1866年に長崎オランダ商館付医師として日本にやってきたシーボルトが、ヨーロッパに持ち帰って広めたと言われます。 彼は、日本に滞在中にこよなく愛した『お滝さん』にちなんで、紫陽花に『オタクサ(Otaksa)』という学名を付けました。日本は火山国で雨も多く、土壌が弱酸性になりやすいため、青みの強いアジサイが一般的ですが、外国では逆にピンク系統が多く、美しい藍色のものはあまり見られないようです。 紫陽花の色は、土壌のpH(水素指数)次第だということになりますが、本来の色は何色なのでしょうか? 橋本多佳子(1899〜1963)の句に、つぎの句があります。 あじさゐやきのふの手紙はや古ぶ 橋本多佳子 手紙とは、恋文(ラブレター)のことですが、昨日もらったときにはあんなに嬉しく思ったのに、一夜明けてみるとその思いはもう色褪(あ)せてしまっているということではないようです。 手紙は、自分で書いた恋文のことです。揺らぐ気持ちの中で書いた昨夜の手紙。一夜明けて読み返してみると、『違うよね・・・』とため息交じり。外を見ると紫陽花が咲いています。『私の本当の気持ち、教えてよ・・・』 出すに出せない手紙です。 あるいは、情熱的に書きすぎた手紙かも知れません。それとも、まだ書き足りなかった手紙でしょうか? |
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2006.06.21 | ||||
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