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黒猫の背伸び見てゐる冬の月
水田のルミナエルめく聖夜かな
しぐぐるや水子地蔵は赤きべべ
蹲の霜解待って鎌を研ぐ
火男の天敵といふ竈猫
秋月の旅の終わりの葛湯かな
チャルメラと間合いを取って夜番の柝
時をとめ銀杏落葉のふりつもる
朴落葉夢のごとくに落ちにけり
八十路坂蕎麦湯といふ人ごこち
秋鯖をしめて至福の一人宴
大見得を写楽のまゝに菊人形
からすうり夢は密かに抱くもの
冬瓜や縁側といふ置き処
山里は河童など鳴く霧の朝
観月や武士の情けの薩摩琵琶
冬瓜やがんこ一途の泣き上戸
故郷を白髪に染めて蕎麦の花
道草は郁子の実の生る秘密基地
悠久の熊襲の塚や星月夜
秋の田に名残を惜しむ峠越え
おもしろうてやがて怯えの野分かな
継承を子らに託して秋祭
猿酒やおかめばかりの料理店
バンガロー君と銀河をふたり占め
雨の打つ白き死骸や花木槿
釘打って雨戸は古き野分かな
新涼や鋭く鎌の研ぎ上がる
ホッホーと声で呼び込む秋の風
霖雨降る色とりどりの案山子かな
選りすぐり盆礼とする野菜かな
草を取る小さき母の残暑かな
どの所作も腰定めたる阿波踊り
星の夜に降るかなかなのしぐれかな
着メロを替えてみる朝原爆忌
遠泳の子らを見守る桜島
学業の成果土産に夏休み
トッピングに埋もれてゐる冷奴
値踏みより食い気が勝る鰻かな
黒潮の穿つ断崖鹿の子百合
サルビアは燃えるがごとし天主堂
病室の音を忘れた遠花火
ふるさとは降車途端の蝉しぐれ
八千代座の前に小さき氷菓店
竹ざるのつくり立てなる夏料理
父と子の胡坐して食う鰻飯
妻と子は眠りたる頃烏賊釣火
電鉄を貴船で降りる鱧料理
飛魚と先を争う離島便
荒梅雨や地下足袋で知る水の嵩
代掻いて峡の村々太湖めく
猫の仔の点す外灯梅雨昼間
初恋は今もときめき額の花
枇杷の実を端正に詰め東北便
煙炎の同じ向きなる菜殻焚
五月雨やインクの匂ふ文庫本
漆黒の闇に突き刺すほととぎす
麦秋の匂ひを運ぶ日豊線
毛筆で書くラブレター茄子の花
柿若葉明治引きずる弾の痕
薫風や開け放たれて置手紙
都会まで泳いでゆけよ鯉のぼり
ひなげしの皆おじぎする風日和
老鶯や友の来りてお茶を汲む
思い出といふからたちの花言葉
木苺の花に風あるふるさとよ
敦煌は蒼色で描く朧月
菜の花の湾につらなる入日かな
桃色の絵の具流して芝桜
一椀のめしに嬉しき花菜漬
春月に触るるばかりの鬼瓦
ゼンマイのほどけて玩具亀の声
母ゆずり妻のレシピの花菜漬
草餅をいただく店の草書書き
城下町屋敷を区切る花あしび
つちふるや行き交う人も足早に
連れ合いがいてつくづくと春の風邪
ふらここに疲れて乙女夜半の夢
木の芽和妻へ感謝の小旅行
啓蟄やパーマ屋に客ぞろぞろと
花の種ビーズのごとく選びけり
引鶴や車庫へ納まる終列車
嫁入りの金襴緞子春の川
お守りに母の手縫いのつるし雛
地下足袋の底より伝ふ余寒かな
春泥や南部牛追い曲がり家
芹洗ふ富士千年のもらひ水
春暖炉ホテルは富士を望みけり
雨脚をはじく白さや梅の花
裏背戸に妻の育てた蕗のたう
白マスク女の美貌隠しえず
探梅や愚作一句も作れずに
身ぶるって児の初味や蕗のたう
干蒲団陽の匂ひごとたたみけり
猫の餌はおかか懐石骨正月
白き手のつげば弾ける炭火かな
少年の自分に出逢う神楽かな
埋火(うづみび)を消せぬ心のもどかしく
鳥追の身卑しからぬ母と子と
福寿草児を抱くように持ち帰り
奴凧日本の空をつくりけり
(歳旦三つ物)
初晴れや煙かすかに桜島
家族そろって行く初詣
美しき手の埋火(うづみび)をかき出して
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