俳句 | ・ワシモ(WaShimo)の気ままに俳句 |
2006年以前 選 評 | |
二の腕の蝋石なるや月明かり 『こら、こんなにきれいにみえる』といってお惠(けい)ちゃんのまえへ腕をだした。『まあ』そういいながら恋人は袖(そで)をまくって『あたしだって』といって見せた。 〜 中勘助著の『銀の匙(さじ)』より。2006/09/15 鶏頭や客なき午後の理髪店 くるくるまわる有平棒や大きな鏡と洗面台、予め勝手反対な掛け時計。理髪店には独自のオブジェがあって、田舎町の客なき午後の理髪店には、ことさら理髪店らしい雰囲気があります。2006/09/14 引き馬に赤蜻蛉の引かれゆく 寝そべったり、牛や馬と一緒に写真を撮ったり、引き馬に乗ったりして、阿蘇の草千里ヶ浜草原には、屈託のない時間が流れます。草千里ヶ浜の秋の情景を詠んでみました。2006/09/14 阿蘇の草千里ヶ浜にて 薩南の無人の駅舎花カンナ 昭和40〜50年代、南九州では、至る所で道路沿いに真っ赤な花カンナが延々と植えられていたものです。情熱的な風景で、指宿や開聞岳付近の原風景でしたが花々の多様化に伴って、最近はあまり見られなくなっています。2006/08/31 引き売りの魚肥りをり涼新た 鹿児島では、生魚のことを『ぶえん』と言います。無塩に由来します。秋刀魚は当然のこと、さばやぶりなど、秋は魚が旬の時季ですね。朝夕に涼しさを覚え、夏の終わりが見え始める頃になると、枕崎や阿久根などの漁業の町から、『ぶえんは、いいもはんどか〜い』(生魚は要りませんか〜)と、行商(引き売り)のおばさんがやってきます。そんな光景も今は昔のことになりました。2006/08/30 桔梗咲く肥薩の駅の淋しさよ 熊本県の八代(やつしろ)から鹿児島県隼人まで、山間をぬって走るJR肥薩(ひさつ)線の大隅横川駅は、筑後100年を越える木造の駅舎です。桔梗が一層の淋しさを添えているようです。2006/08/29 大隅横川駅に植えられた桔梗 かしわでに鳴き止みたるや法師蝉 鹿児島県南さつま市の加世田にある竹田神社は、薩摩藩中興の英主・島津日新(じっしん)公(忠良)を祀る神社です。日新公『いろは歌』は、後世に伝えられ鹿児島の教育の大きな柱となりました。残暑が厳しいけど夏の終わりの予感のある竹田神社の境内に拍手(かしわで)が響きます。2006/08/28 日新公を祀る竹田神社 病室の明かり落ちけり遠花火 夏の盛り、あちこちで花火大会が行なわれていることでしょう。遠花火にはどこか寂しさがありますね。ましてや、病室から見る遠花火はなおさらです。2006/08/14 遠雷や三猿の顔こわばれり 8月13日、首都圏は落雷で交通が一時ストップしたり、事故で停電があったりで混乱しているようです。見ざる、言わざる、聞かざる、日光東照宮の三猿も、遠雷に顔をこわばらせているかも知れませんね。2006/08/14 幾千の酢甕の影や星月夜 鹿児島県霧島市の福山は、黒酢の産地で、醸造会社には幾千の酢甕(がめ)が並んでいます。星月夜は、満天に輝きみちた星で月夜のように明るく美しい夜のことで、秋の季語になっています。2006/08/11 福山の酢甕/桜さんより 学童の声のみが行く霧の朝 清流・球磨川の中流域に広がる熊本県人吉市は霧の街として知られています。一年のうち100日以上が乳白色の深い朝霧に覆われるといわれます。2006/08/11 風鈴と豆腐ひとつの昼餉かな 酷暑の続く夏の日には、ご飯に豆腐一丁の昼餉(ひるげ)もたまには良いですね。でも、最近は風鈴で涼を取れるような暑さでなくなりました。日本の夏も段々と変わっていくのでしょうか。2006/08/11 凌霄や大島着たる客のあり あの泥染めの大島紬には、ハイビスカスの花などが良く似合いますが、是非添わせたい花があります。凌霄花(のうぜんかずら)です。大島着たる客・・・、それは憧れです。2006/08/11 凌霄花 雲影のまっすぐ走る青田かな 2006年7月20日〜23日、鹿児島県北部を襲った豪雨は、農業にも大きな被害を与えました。泥が流れ込んだ稲や葉煙草の田んぼでは、泥の除去作業が大変ですが、そんな中で稲たちは生き生きと生長し続けています。2006/07/30 うすぎぬ 薄衣のごと合歓咲けり五家荘 平家や道真公子孫の隠れ里として知られる熊本県の秘境・五家荘は、今すべてが深緑の中で、薄衣を置いたように合歓(ねむ)の花が満開です。2006/07/18 かんぞう 萓草や少年の日の砂利の道 野萓草(ノカンゾウ)や藪萓草(ヤブカンゾウ)は、団塊の世代が少年の頃から変わぬ雰囲気で咲いている夏の花です。当時の田舎道は砂利の道で、車が通ると土埃(ほこり)がします。道路の土手には、萓草が土埃をかぶったまま咲いていました。萓草は、そんなことを思い出させる花です。2006/07/18 かい 風吹けよ峡の青田は母ひとり 過疎の進む村でも、棚田の隅々まで田が植えられています。田の草取りの頃になると、日差しもますます強くなります。2006/07/17 山峡の棚田で くるくるを代田に映す理髪店 鹿児島は今、田植えの最盛期です。田舎は、理髪店の際まで田んぼです。2006/06/24 梔子を摘んでやりけり銀婚日 今、梔子(くちなし)の花が咲いています。団塊の世代にとって、『くちなしの花』といえば、やはり渡哲也の歌謡曲でしょうか。私たちの銀婚の年はもう過ぎましたが、この花をみると柄にもなく、少しきざな気分になります。2006/06/24 梔子の花(坐忘さんより) 五月雨や畷に母の影遠し 五月雨の中を田んぼの見廻りに出た母の影が、畷(なわて)のかなたに小さく霞んで見えます。その光景も遠い昔のことになってしまいました。2006/06/15 蛍火の海のごとくに通夜帰り 一時は姿を消していた蛍たちが最近の水質の改善によってまた戻ってきました。闇夜に辺り一面飛び交っている蛍の幻想的な情景が通夜帰りの感慨をまた深くさせます。2006/06/08 猫遊ぶ破れ垣根や立葵 隣家の猫でしょうか。垣根が崩れた廃屋に屈託なく猫が遊んでいます。そして、深紅やピンクの立葵が咲き誇っています。2006/08/31 女湯のさんざめきをり額の花 南九州は、昨年より16日、平年より3日早く梅雨入りしました。著者の田舎には、近くにあちこち温泉があって、雨の日の休日には時々入りに行きます。2006/05/31 芍薬の匂い求めてかがみけり 菜園に今年も芍薬が咲いてくれました。ふと匂いを嗅いでみたくなりますが、芍薬は匂いがあまり強い花ではありません。2006/04/30 芍薬 弾痕の穴を満たして風薫る 昔は、岩崎谷や長田町にも路面電車が走っていました。西郷隆盛は鶴丸城跡に私学校を建てました。そして、西南戦争。石垣には今も弾丸の跡が残っています。城山や岩崎谷、鶴丸城跡、そして中央公園から天文館へ。歴史に思いを馳せながら、散策するのに絶好の季節になりました。2006/04/30 朝開くるパソコンに春溢れてる わぁー、華麗でいて上品なお花のアレンジメントの写真をお寄せ頂いてありがとう。深いワイン色のチューリップは、チューリップでありながら薔薇にも似た雰囲気があって、良いですね。白いチューリップもアマリリスもそれぞれの色合いに味わいがあります。2006/04/22 掲示板へlilyさんより 耶馬渓や灘を望めば青き麦 青の洞門で知られる耶馬溪から山国川を下れば周防灘に面した大分県中津市です。この一帯は、佐賀平野と並んで麦作が盛んです。今頃、小倉から特急ソニックに乗れば、車窓は緑一色のことでしょう。2006/04/23 大杉を登りつめたる藤の花 鹿児島はもう、藤の花が咲き出しています。田舎暮らしの我が家からは、大杉に登りつめた藤の花が見えます。2006/04/15 藤の花 花冷えや重箱さげて三年忌 あっと言う間に、今年の春は父の三年忌でした。実質二年で三年忌ですから早いはずです。平年に比べて寒かった冬を引きずっているのでしょうか、今春は花冷えの日が多いように感じます。こちらでは、法事にはお重にお米を入れて持ち寄ってお供えするしきたりが今も続いています。2006/04/15 ゆおも 銀鼠のゆらり湯面や桃の花 熊本県の黒川温泉の名物はなんと言っても全27ある旅館がそれぞれ工夫を凝らして手作りで作った露天風呂です。まだ春浅い露天風呂の銀鼠(ぎんねず)の湯面に桃の花が映って揺れています。 黒川は坂ある街よ木の芽吹く 熊本県の黒川温泉は人気の温泉場ですが、かつては地図にも載らない無名の地だったそうです。地域ぐるみでの大改革を経て、一躍人気温泉地となりました。黒川温泉は、いご坂など、坂の多い街です。 花冷えや昭和演歌の漏れく夜 日本語には、風流のある言い回しが沢山あります。桜の咲く頃の冷込みを『花冷え』といいます。この言葉もそんな言い回しの一つです。この時分、歓送迎会あるいは花見の二次会なのでしょうか、路地裏を歩けば、カラオケで歌う昭和歌謡がスナックから漏れ聞こえてきます。いよいよ、団塊の世代の退職が始まります。 薩摩川内市樋脇町丸山公園で 菜の花や沖ゆく船のゆくりなり 司馬遼太郎氏の回忌の名を「菜の花忌」と言います。これは、淡路島の農民の子から廻船商人となりロシア船に拿捕され、帰国後日露関係の改善にも尽力した高田屋嘉兵衛を主人公にした歴史小説「菜の花の沖」のタイトルに由来します。 春寒や燈籠の灯の柔らかし 平年に比べて寒かった冬を引きずっているのでしょうか、立春を過ぎても寒い日が続きますが、庭先に飾りとして置いてある燈籠風ソーラーライトの灯りも柔らかく感じられます。 振る鍬もそぞろなるかな鶴帰る 立春を翌々日に控えた2006年2月2日、鹿児島県出水市で越冬している1万2千500余羽のツルの北帰行が始まりました。比較的暖かだった快晴の中で、マナズル6羽が繁殖地のシベリアを目指して飛び立ちました。昨年より9日早い第一陣だそうです。ツルたちは徐々に高度を上げながら上昇気流をつかむと、旋回をはじめ一気に急上昇し、一路繁殖地のシベリアを目指して飛び立っていきます。ツルたちの旅の無事を祈りたいものです。 鹿児島県出水市荒崎で 水弾く車道の音やシクラメン 単身赴任中の住まいは道路端のワンルームマンションです。寝付けぬ雨の夜、車道を車が行き交いしています。出窓には、先日訪れてくれた妻とホームセンターで買い求めた真赤のシクラメンの鉢植えが置いてあります。2006/02/06 餞別も友のままなる名残雪 1月も下旬。今、受験生はセンター一次試験の採点、大学4年生は卒論の追い込み。それが終れば、それぞれに悲喜交々の旅立ち、出立、別れの時季になります。一言いえなかった別れ・・・・。2006/01/27 わらべご 童子も鬼の笑顔やどんど焼き 薩摩地方では、どんど焚きのことを『鬼火焚き』と言い、青少年育成の一環を兼ねて行なわれる正月恒例の行事です。2006/01/14 うすもえぎ 侘助や茶店の暖簾淡萌黄 淡萌黄(うすもえぎ)色の暖簾をかけた、ちょっとした瀟洒な茶店かお食事処。その床の間に生けた白侘助の一輪挿し、あるいは中庭の築山に凛として咲く白侘助。侘助の花は全開せずいわゆるお猪口の控えめな花です。2006/01/14 写真は、岐阜県に在住の風眠さんから 廃屋の文旦太く垂れてをり 薩摩地方は今、方々の家の庭先にミカンが生っています。大きいミカンなので文旦系でしょうか。鹿児島県阿久根地方は文旦の産地で、道の駅や国道沿いの露店で売られています。廃家にそれとは不釣合いなほど見事で大きな文旦が熟れています。気候温暖で、自然に恵まれているのに過疎になって行くのは残念でさびしいです(添削作品)。2006/01/08 ほう はは 惚けたる老母の手白し日向ぼこ 痴呆の進んだ老母(はは)ですが、天気の良い日にはガラス越しの陽光で日向ぼこのひとときを過ごせるような環境にあることは救いです。2006/01/08 猫の餌の少し多めや大晦日 乾杯をして年越しそばをすすっている傍らで、もうとっくに定量の食事を食べ終わった猫が恨めしいそうな目で見詰めています。「そうだな〜、今夜は年越しだしな〜」。キャッツフードの缶詰を開けて、追加してやります。2005/12/31 大鯉の影は動かず枇杷の花 枇杷の花が、冬の寒さに耐えて甘い香りを漂わせています。枇杷といって思い浮かぶのは、やはり初夏のみずみずしい黄色の果実でしょうか。花まではなかなか連想が及びにくいですが、俳句では冬の季語です。枇杷の花が咲く頃は、魚たちも動きが静かな時季です(添削作品)。2005/12/21 託児所の迎え待つ子や冬の月 冬の満月に照らされながら託児所に向う道すがら、迎えを待つ幼子が不憫(ふびん)に思われますが、凍て空に冴えた冬の月の美しさは、私たちの生活の張りそのもののような気がします(添削作品)。 2005/12/20 軒つらら昭和も遠くなりにけり 少年の頃、鹿児島の北部の冬はそれなりに寒かったです。屋根の排水もあまり良くなかったのでしょう、軒下の滴りがよくつららになっていたものです。そして、舗装してない土の道路には、霜柱が立っていました。軒つらら、郷愁をそそる懐かしい昭和の光景です。2005/12/20 大根噛む青首ほどの若さかな 冬は大根の美味しい季節です。青首大根の漬けたての漬物をポリポリと頂いています。2004/11/01 田の神も我を忘れし聖樹かな 12月になると毎年、都会からイルミネーションの便りが届きます。とても綺麗ですね。作者の田舎では、田んぼに水を張ってイルミネーションを飾っています。まるで大きな池に飾ったイルミネーションに見えます。田舎は田舎なりの工夫で冬の飾りです。2005/12/21 田んぼの中のイルミネーション(大口市) 蒼白き枯野の底や通夜帰り 枯野の蒼い夜はいっそう蒼い。その底を通夜帰りです。 2004/12/03) 働きて夜半に物干す冬の月 昼間の陽だまりの中で洗濯物を干したいのは山々ですが、働いているとそうもいきません。遅く帰宅して、食事をつくり、子供の学校の身支度など確認していると、干すのはいつも夜遅くになります。月は何も言わないけど、凍て空に冴えた美しさは、私の生活の張りそのもののような気がします。2005/01/25 2 田の神も踊り出しそな彼岸花 座して農事を見守る田の神も稲が穂を垂れて色付きを増すとウキウキしてきます。そんな気持ちに当たり一面の彼岸花が油を注ぎます。2004/09/04 新涼や鎌研ぐ音に目覚めけり 朝夕が涼しくなり、稲穂が色づき始める頃になると、農家は本格的な農繁期へ向けて準備の時季に入ります。2005/09/08 百年の駅舎仰げば天の川 山あいの小さな街の夜は、猫一匹通らない静けさで、頭上には満天の星が輝いています。築後100年を経た木造駅舎の夜景は、ノスタルジックで幻想的です。今にも、ジョバンニたちを乗せた『銀河鉄道の夜』の汽車や『となりのトトロ』の猫バスでもやってきそうです。 2005/08/29 筑後100余年の大隅横川駅舎 赤々と猿酒に酔う狐宿 猿酒とは、猿が木の実を蓄えていた樹木の空洞や岩の窪みに雨や露が溜まり、自然に発酵して酒となったもので、とても芳醇な味がすると言われています。「うめ〜なこの酒! だが待てよ? ここの女将(おかみ)にゃ〜、尻尾(しっぽ)があるぞ! まあ〜いいか。酒が美味けりゃ!」 2004/09/22 編笠に想いそそられ風の盆 富山平野の南端、飛騨の山々が描く稜線の裾野に細長く広がる町、越中八尾は坂の町です。坂の町に初秋の風が吹く、9月1日から3日の頃は毎年、なんでもない八尾の風景が、最も輝きを見せる『風の盆』の時季です。ずっーと訪れたいと思い続けてきた越中八尾の『風の盆』を、今回見に行きました。2005/09/06 越中八尾〜諏訪神社 風鈴や寝入りし孫に風ひとつ 初孫が我が家に長期滞在することになり、嬉しい夏になりますというお便りを頂きました。あやしつけて孫がやっと寝入った昼下がり、ホッとした気持ちに相槌(あいずち)を打つかのように涼しい風が一吹き、風鈴を揺らします。2005/07/08 麦秋や車窓に薄き我が影 鳥栖から特急「かもめ」に乗って、佐賀県の肥前鹿島市に茅葺民家や浜宿の土蔵造りの町並みを見に行きました。車窓から見る佐賀平野は、麦が色付きを増しています。梅雨を控え、麦が熟する麦秋(ばくしゅう)の頃は、文字通り秋に似た風情があります。旅愁もひとしおです。2005/06/09 車窓から〜佐賀平野 飯場にも高く揚がりし鯉のぼり 遠く故郷に家族を残して工事現場で働くお父さんたちがいます。父は子供の成長を思い、留守を守る家族はお父さんへのねぎらいと安全を思って、それぞれに頑張っています。そんな心情を想像しながら詠んでみました。2005/05/08 いかなごの届きて偲ぶ須磨の寺 今年も、兵庫の春の風物詩『いかなごのくぎ煮』が届きました。神戸は、就職そして新婚から10年を過ごしたところです。新婚時代住んでいたのが、山陽電鉄塩屋駅の山手側のアパートでした。近くには、垂水、舞子、明石、須磨がありました。それらの地名には懐かしい響きがあります。鹿児島にU−タンして、10数年後に神戸淡路大震災があり、その後明石の花火大会事故。そして、今回のJR福知山線脱線事故と大きな事故が続いてしまいましたが、『関西! 元気を出して頑張れ! 』と声援を送らずにはいられません。2005/05/04 |
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