旅行記  ・関門海峡の風景(1)−門司港レトロの風景   

小倉から門司港への旅はほんのちょっとの旅です。小倉駅から門司港行きの電車に乗ると、門司駅、小森江駅に停車して門司港駅には14分で着きます。門司港駅は鹿児島本線の終着駅(始発駅)です。下関方面へは門司駅から分岐して山陽本線になります。したがって、門司港へ行く人は門司港行きに、下関方面へ行く人は山陽本線直行の電車にちゃんと乗らないと面倒なことになります。現に、制作者が門司港を訪れたとき、下関に行くつもりで門司港に着いてしまって当惑している2〜3人連れがありました。門司駅から門司港駅にかけての地形的な特徴は、門司港に向かって左手が関門海峡で、車窓から建物の切れ目切れ目に見える海峡の向こうの海岸はすぐそこです。海峡の向こうと言うより、大きな河の向こう岸の感じです。地図でみると狭いところで海峡の幅は1km程度しかありません。一方、向かって右手は、圧迫を感じるほどではないけれど標高200〜300mの山がすぐそこまで迫ってきていて、海岸線の平地部が狭いのに気付きます。

 電車が、行き止まりのプラットホームにすべり込んでまず印象的なのが、長いプラットホームの古い木造の屋根です。まるでクモが屋根裏の空間に3次元的に巣を張ったように多数の梁(はり)が組まれている天井部分があります。門司港駅は、ヨーロッパの駅をモデルにして大正3年に建築されたネオ・ルネッサンス風の木造2階建てで、日本の駅としては唯一国の重要無形文化財に指定されている駅です。ですから、この駅にはここでしか見られないレトロなあれこれがたくさんあります。おもしろいのは洗面所です。洗面所と言えば、最近はトイレ付きが普通で、むしろトイレの方が主体です。ところが、この駅の洗面所は純粋の洗面用で、ちゃんと男子用と女子用別々にありますがトイレは付いていません。トイレは洗面所の隣に別にあります。蒸気機関車時代の当時は顔や手がすすだらけになったようです。乗り換えの時に、顔や手を洗うためにつくられたものでしょうか。現在も利用されていますが、流し台の高さがとても低いのは、足が洗いやすいようにそう設計されたものと思われます。改札口を出ると駅構内は切符売場、待合室、構内レストランなどレトロな感じです。
 門司港駅を出て、「門司港レトロ」に出ると、混雑するほどではない、散策するには程よい数の観光客がありました。訪れたのは快晴のまだ少し残暑の残る土曜日の午後でしたが若い観光客が多いでした。明治22年(1889年)に開港した門司港は、北九州の工業力と結びついて国際貿易港として繁栄しました。街には商社やモダンなビルディングが建ち並び、洋行客相手の店も多く華やかな賑わい
を見せたそうです。また、門司港駅は本州連絡船が出航する駅で、関門トンネルが開通する昭和33年(1958年)まで乗降客で大いに賑わったそうです。門司港には、当時の大正ロマンの面影を偲(しの)ばせる古い建築や街並みが今なお残されています。この古い街並みと新しい都市機能をうまく融合させた都市型観光地をめざし、「門司港レトロ」と名づけて開発が進められたとのことです。レトロ(RETRO)とは、懐古的という意味の英語RETROSPECTIVEを略した言葉です。