♪Twilight
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旅行記 ・貴船を訪ねて − 京都市  2005.09   

鴨川の源流、京の景勝地、貴船。貴船川に沿って貴船神社鳥居前辺りまで続く細い道路の両側に
軒を連ねる瀟洒(しょうしゃ)な旅館街。
夏は川床(かわとこ)料理、冬はぼたん鍋。
京都洛北の四季折々の山の幸、川の幸が堪能できる奥座敷・隠れ宿として、小説にもよく登場します。
越中八尾の風の盆を訪ねた帰路、京都に降り立って、
貴船を訪ねました。
新幹線の降り場から、人々が降りてくる。
多紀は一瞬、
見ないように目をそらす。
目を開いたとき、
目の前に柚木が現われていた。



「ありがとう」 


柚木がしっかりと、多紀の手を握る。
「お宿は、貴船の”ひろや”さん、というところをお願しておきました」

陽が少しずつ傾き、
それとともに山の影が迫ってきた。
車は鞍馬街道に入ったらしい。
道の両側に山が迫り、
樹の葉のあいだから、せせらぎが見える。
「その宿に今夜は一緒に泊まれるのだね」
 「お食事は床(ゆか)のほうでおしやすか」
女中がお茶を注ぎながら尋ねる。
下の清流の上に板床を敷き、せせらぎを
ききながら、
鮎料理を楽しむのである。


以上
渡辺淳一著・『まひる野』
(新潮文庫)
より

                                                            −貴船神社−
日も数添(かずそ)ひて恋衣(こいころも)〜
日も数添ひて恋衣〜
ただ独りで、白装束の女が歩いている。
素足であった。
夜更けの森の中である。
女は、貴船神社に向っているのである。
京の北、鞍馬山から西に下ったところに
ある古い神社が
この貴船神社であった。
祭神は、
高(たかお)かすみの神と闇(くらお)かすみの神
である。


以上
夢枕獏著・『陰陽師−付喪神ノ巻』
(文春文庫)
より
5月1日から9月いっぱい、川床がしつらえられる。
川の流れの真上に座敷をつくり食事するなんて、おそらく京都以外ないと思う。
「薮(やぶ)入り」のときに近隣の人をもてなす風習として
はじまったといわれていて、
二十軒ほどの床はどこも鱧(はも)の塩焼きがついた京料理か京料理風。
座布団に腰を下ろしたとたん、異次元だ。
床すれすれに急流が走り、川音に全身が包み込まれる。
まわりはただただ鬱蒼(うっそう)とした森。
                                               −貴船口駅付近の車窓から見る鞍馬の民家−


なんてことするの京都人、と思ってしまった。まるで壮大なおままごと。
                            −叡山電鉄・貴船口駅−


以上
甘里君香著・『京都スタイル』
(新潮文庫)
より

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