♪甑島のトシドン
当日の録音

       
       
旅行記 ・甑島のトシドン − 鹿児島県薩摩川内市下甑町 2011.12.31
 
 甑島のトシドン
(ユネスコ無形文化遺産)
大晦日、夜7時になると、トシドンは天上界から高い山の山頂伝いに下り立ってきます。
鹿児島県薩摩半島の約38km西方の東シナ海に浮かぶ
甑島(こしきじま)列島は、薩摩川内(せんだい)市に属し、上甑島・中甑島・下甑島の
主なる3島と、付属するいくつかの島からなります。
従者を従え、金を鳴らしながら子供(幼児)のいる家庭へ向います。
その下甑島で藩政時代より伝承されてきている年越し行事の
『トシドン』は、国指定重要無形民俗文化財であるとともに、平成21年(2009年)9月、
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されました。
その面は、子供たちが真実怖がる恐ろしさです。
今回(2011年12月31日)、
手打地区本町自治会トシドン保存会(内邦弘会長)が募集する見学会に応募し、
その受諾を得て、見学させて頂き写真を撮影させて頂きました。
この家だな! 『子供はおいか!』『戸を早よ開けんか!』『顔を出さんか!』などと怒鳴り始めます。
トシドンは、年に一度だけ大晦日の晩に
訪問する年神様の化身で、通常は天上界にいて子供たちを見守っています。大晦日の夜になると、
『首切れ馬』に乗って従者を従え、高い山の山頂伝いに下りてきます。
家族とともにトシドンを待ちます。トシドンの恐ろしさを知っている子供はもう泣き顔です。
ドンドンと家の壁や窓を壊れんばかりに叩き、
『おるか、おるか、ここに来て障子を開けぇ』と大きな声で怒鳴りながら、
子供(5〜6歳以下の幼児)のいる家々を訪れます。

トシドンが家に入り込んできて、問い質(ただ)しが始まります。
『勉強をしているか!』『家の手伝いをしているか!』
『仲良くしているか!』『あいさつはしているか!』『約束した時間を守ってゲームをしとっとか!』
などと、子供を問い質(ただ)します。
心底トシドンが怖いので、はっきりと受け答えします。傍らのお母さんはもう子供がかわいそうやらで・・・。
トシドンは年神の化身として、
幼児の悪い行いを戒め、良い行いを褒めます。また歌を歌わせるなど、
幼児が得意なことをさせたりします。
『歌が上手だと聞いているが、何か歌って聞かせろ!』と催促します。  
最後に、来る年を心身ともに健全で
良い子で過ごすように幼児と約束を交わし、その褒美として大きな餅(年餅)を
授けて、トシドンは去っていきます。
歌を披露します。身振り手振りを添えて懸命です。
トシドンは、下甑島の人々の日常の生活の中に
溶け込んで いて、幼児にとっては真に怖い存在であり、幼児はその存在を
疑うことなく新しい年を迎えるのです。
褒美に年餅を頂けるというので近づくと、トシドンに囲まれて、これがまた怖いです。
また、親にとっては、日常生活の中で幼児の
悪い行いや、言うことを聞かないときなどに、トシドンの存在を持ち出して改めさせるなど、
しつけや情操教育における導きの手段となっているのです。
やっとの思いで背中に載せてもらって年餅を頂きます。
このように、トシドン行事は、観光イベントではなく、
子供のしつけなどを目的に、トシドンと子供そして家族が敬虔(けいけん)な
態度で真剣に取り組む一年締めくくりの行事です。
トシドンに来てもらったお礼い、年餅をもらったお礼いを述べます。
そして、個人のプライベートな家庭の中で行われる行事で
あることから、トシドンは保存会へ見学の申し込みを行って受諾を得、事前に保存会の方々と
打ち合わせを行った上で見学に臨むようになっています。
まだ障子を閉めるお手伝いが残っていました。これで、怖い怖いトシドンが去っていきます。よく頑張りました。
 
編集後記
昨年と一昨年にトシドンの見学を申し込んで受諾を得ていたのですが、生憎天候に恵まれず船が欠航になったため見学を果たせずにいました。今回(2011年)は三度目の正直で、”30年ぶりの好天気”というベタ凪(なぎ)に恵まれ、トシドンとのすばらしい出合いができたのでした。薩摩半島本土の串木野新港を8時10分に出発した高速船シーホークが10時35分に手打港に着くと、トシドン保存会の方々に迎えられ、保存会のメンバーで下甑歴史の語り部・蔵野量夫さんの案内で、先ずは島内観光に出かけました。蔵野さんの話しを聞きながら、下甑島の手つかずの自然、奇岩が独特の様相を呈するダイナミックな断崖などを観光するほどに、ここはきっと”神様が棲む島”に違いないという雰囲気を覚えてきました。今回のトシドンの見学者は13名でした。東京から2グループ5名、神奈川から1グループ3名、奈良から1名と県外からの見学が多く、それも民俗学や祭祀文明などに興味を持たれたりあるいは研究されたりしている方々ばかりでした。米国インディアナ大学で東アジアの民俗学を研究されている助教授の方は、すでに何度も取材に来られているということでした。トシドンは下甑島の6集落に保存会がありますが、手打地区本町自治会トシドン保存会だけが唯一、見学者を募っています(但し、募集定員は20名程度)。上述した通り、見学に先立って保存会の方々と見学者が一堂に会して打ち合わせがあり、見学の後は意見交換会が催されました。『見せ物になっては行事本来の趣旨を損なう。悩んだが、地域浮揚のためならばと見学者の募集を決断した』とおっしゃる内邦弘会長さんの思いに沿った見学会でした。手打地区本町自治会トシドン保存会の皆さん、本町自治会の皆さん、ありがとうございました。
 
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