俳句鑑賞  ・竈(かまど)猫   
− 竈(かまど)猫 −
夏は、涼しい場所見つけの名人だった猫が、冬になると今度は、縁側の陽だまりだとかストーブの前だとか、コタツ布団の上など、その時々の一番暖かい場所を探しつけて過ごします。夕方帰宅した自家用車のボンネットはさも猫が好きそうな温かさですが、足跡だらけにして汚してくれるのは困りものです。
 
団塊の世代が子供の頃の1960年(昭和35年)代は、田舎の台所にはまだ竈(かまど)のあった時代でした。薪(まき)がトロトロと燃える竈の前は、当然猫お気に入りの場所で、目をつむって、じっとうずくまっています。
 
そして、火が落ちると竈はさらに格好の場所になります。寒がりの猫は、なんと火を落としたあとの生暖かさの残る竈の中へ入って、ぬくぬくと灰にまみれて寝入るのです。ときには残り火で毛に焼け焦げを作ったりの失態をしでかします。そんな愛嬌やおかしみのある猫の姿から、竈猫という冬の季語が生まれました。
 
    何もかも知つてをるなりかまど猫  富安風生
 
灰だらけになって、毛を焼け焦がする猫ではありますが、家の中のことは何でも知っている猫でありました。竈に猫の寝そべる家郷(ふるさと)には、ぬくぬくとした温かさがあります。
 
    かまど猫家郷いよいよ去りがたし  鈴木渥志
 
竈のことを、へっついとも言うので、『へっつい猫』とも、あるいは、灰猫、炬燵猫、『かじけ猫』とも言います。かじける(悴ける)は、寒さで凍えて、手足が自由に動かなくなる意で、冬になって動きがにぶくなり、うずくまっていたりする猫の姿を言ったものでしょう。なかなか言い得て妙ですね。
 
今季は、北国でも雪の少ない冬のようですし、地球温暖化が予想以上に進んでいるという専門家の指摘があります。著者も冬の寒さは苦手ですが、温暖化が進んで、冬に猫がかじけることを知らなくなるようなことになっても困りますね。竈はもう見られなくなり、竈猫の姿も、記憶に留め置きたい懐かしい光景の一つになりました。
 

  2007.02.07 
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