コラム  ・シグナルとシクナレス   
 
− ジシグナルとシクナレス −
鹿児島県さつま町久富木の国鉄宮之城線時代の腕木信号機の写真を見て頂き、宮沢賢治の「シグナルとシクナレス」を思い出しますネ、と教えて頂きました。腕木信号機どうしが恋をするなど思いもしなかったのでびっくりでした。

宮沢賢治の数少ない生前発表作の童話で、「岩手毎日新聞」紙上に1923(大正12)年5月11日から23日まで断続的に掲載されました。「若さま」と呼ばれている本線シグナルと、離れて立っている軽便鉄道のシグナレスとの恋の物語です。

女性形につける -ess は、princess(王女)や lioness(雌ライオン)など多くの例がありますが、シグナレスは賢治の造語です。この童話については、ネットでいろいろな考察や見解などを検索できます。

例えば、『宮沢賢治「シグナルとシグナレス」の三重の寓意 ― 岩手軽便鉄道国有化問題と有島武郎の恋と天球の音楽と―』と題する研究論文があります(1)。以下に、要旨を転載させて頂きます。

〜宮沢賢治の短編「シグナルとシグナレス」は、従来、幻想的童話とみられていたが、実は地域の話題を寓話化した大人向けの物語であった。その話題の一つは、私鉄の岩手軽便鉄道(ほぼ現JR釜石線)を国有化させ、国鉄(現JR)東北本線に繋ぎたいという運動をモデルにし、愛しているが離れて立つシグナレス(岩手軽便鉄道)と本線シグナルとの恋を描いた。

第二の寓意は有島武郎と河野信子との恋愛で、有島武郎は新渡戸稲造の姪の信子を愛するが、鉄道の国有化に大きな影響力を持つ父有島武は、産婆の娘信子を身分違いとして結婚に反対し新渡戸家の郷里花巻の人々の憤激を買ったことを物語化している。

第三の寓意はピタゴラス派の諧音の示す天空の妙なる調和である。地上の葛藤や矛盾の多い世界と異なり、天上には美しい和の調べがあり、それが天球の音楽として、恋人たちを感動させるのである。すなわち、天:天球の音楽が示す美しい調和。地:地域社会の軽便鉄道国有化運動、人:有島武郎と河野信子の実らぬ恋、の三つの寓意がこめられた作品である。〜

この童話は、青空文庫(2)で読むことができますが、絵本(発行者/mikiHOUSE、 絵/山口マオ)を購入してみました。とてもファンタジーな絵本です。実は2010年3月にイーハトーブ館(花巻市)を訪ねたとき、知らずにオブジェを撮影していたのでした(4枚目の写真)。

『シグナルとシグナレス』(絵/山口マオ、発行者/mikiHOUSE)の表紙
『シグナルとシグナレス』(絵/山口マオ、発行者/mikiHOUSE)
『シグナルとシグナレス』(同上)
『シグナルとシグナレス』のオブジェ
2010年3月、イーハトーブ館(花巻市)で撮影
 国鉄宮之城線時代の腕木信号機
(鹿児島県さつま町久富木で2023.年4月撮影)
【参考文献】
(1)米地文夫:宮沢賢治「シグナルとシグナレス」の三重の寓意(総合政策
   第17巻 第2号(2016)pp.177-196 Journal of Policy Studies)

(2)青空文庫「宮沢賢治 シグナルとシグナレス」

  2023.05.03
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