季語にはもちろん日常使う言葉が使われるのだが、俳句独特の言い回しの季語がある。亀鳴く、山笑ふ、風光る。かつては冬になると、竈猫などと呼ばれる猫が現れた。
例えば山が笑うとはどういうことなのだろうと季語を突き詰めて考えてみると、今まで見過ごしていた季節の情緒に気づいたりすることがある。
早春の季語に薄氷がある。文字通り「うすごおり」とも読めるが、俳句では通常「うすらい」という。立春を迎えた後の氷はうっすらと薄く、そっと持ち上げないと壊れ、つまめば指と指の間でまたたくまに水になってしまう。
そんなはかなさとあやうさのある薄い氷の存在に春の訪れを感じるということであるが、冬に張る氷だって薄い。だからといって薄氷という春の季語は使えない。実は、冬の薄い氷を表現する季語があるのだ。
「蝉氷」という言葉である。冬に手水鉢などの水面に薄く張った氷にはスジが入っていて、それが透明な蝉の羽に似ていることからそう呼んだのだ。冬の氷は、春の氷に比べて形状感や硬質感がある。
しかし日が高くなる頃には融けてしまうので、やはりはかない存在であることに違いはない。よく考えると蝉自体が短命の象徴でもあるのだ。蝉氷などといった季語を発明した俳人の観察眼と表現力には驚かされる。
早暁の蹲踞に這う蝉氷 渡
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