レポート  ・PSA検査のすすめ   
− PSA検査のすすめ −
天皇陛下や森元総理大臣の前立腺がん手術、また歌手の三波春夫さんや映画監督深作欣二さんの前立腺がん死などで広く知られるようになった前立腺がんは、アメリカでは、すでに肺がんを抜いて、男性のがんの中で発生率第一位になっています。
 
欧米にくらべると、日本ではまだその数が少ないものの、最近、急カーブを描いて患者数が増えており、2015年には罹患(りかん)率、死亡率ともに、がんのトップに躍り出るとも予想されています。
 
前立腺は、精液の一部である前立腺液を分泌する男性特有の臓器であり、膀胱下側の尿道を取り巻くようにして直腸に隣接し、ちょうど栗の実のような形と大きさをしています。年を取ると前立腺機能が低下して、前立腺細胞が通常の細胞増殖機能を失い、無秩序に自己増殖を繰り返すことによってがんが発生すると考えられています。
 
したがって、前立腺がんは年配男性に発生するがんであり、患者の9割は60歳以上だといわれていますが、50歳以上の日本人男性の20%にも前立腺がんがあり、その2%はすぐに治療を必要とするという指摘もあります。
 
進行が遅いことが大きな特徴ですが、初期には自覚症状がなく、骨やリンパ節に転移しやすいのでやはり怖いです。しかし、心強いのは、他のがんと違い、PSA(ピーエスエー)という簡単で非常に敏感な血液検査があって、早期発見に有用なことです。
 
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著者(昭和24年生まれ)が、前立腺生検(組織検査)のため一泊二日の検査入院をしたのはちょうど1年前の2006年正月明けのことでした。その前年の11月頃から、排尿時に違和感を感じるときがあったので、暮れも押し迫った12月の末、泌尿器科に行ったのです。
 
白血球の総数が増えているので、炎症と思われますが、一応PSA検査をしておきましょうということで検査を受けました。PSAは、『前立腺特異的抗原』の英語の頭文字を取ったもので、普段は前立腺の外に出ることのないタンパク質が、がんの発生などによって組織構造が崩壊して、血管の中に漏れ出てくるのを敏感にとらえるのがPSA検査です。
 
PSAの正常値は4(ng/ml)未満、4〜10がグレーゾーン、10以上ががんの可能性ありとされていますが、PSA値は、前立腺肥大症や急性前立腺炎でも上昇することがしばしばあるので、最終的には、生検を行い組織を顕微鏡で調べた結果で、がんかどうかの判断をします(注記:ngはナノグラムと読み、10億分の1g のこと)。
 
PSA検査は血液検査です。採血後、検査結果を待つこと約1時間。知らされたのは、『PSA値が 4.1(ng/ml)ですから、グレーゾーンです。がんの疑いを捨て切れません。』という結果でした(4未満に近いからといって安心だとは限らないと)。
 
”がん”という言葉を聞こうなどとは夢にも思わず訪ねた泌尿器科でしたし、それまでの三年間、人間ドックで受けたPSA検査では何の指摘もなかったので、晴天の霹靂(へきれき)でした。何かの間違いだろうと思ってみても、やはり動揺は隠せません。生検をおすすめしますと担当医にいわれ、正月明けに受けることになりました。
 
前立腺生検(針生検)は、肛門から超音波プローブ(探り針)を挿入し、超音波で観察しながら前立腺の8〜10個所に針を刺して組織を採取します。20〜30分ですみますし、麻酔をかけているので痛みは感じませんが、組織を採るときの、ガシャッというホッチキスで留めるような音は決して感触の良いものではありませんでした。
 
組織検査の結果、がん細胞は見つからず、陰性という結果を10日後にもらい、その頃には排尿時の違和感もなくなっていました。また、それから8ヶ月後の昨年9月の人間ドックでのPSA検査では、1.26(ng/ml)というこれまでのレベルに戻っていて、事無きを得たのですが、グレーゾーンと宣告されてから生検結果が出るまでの3週間は、悶々とした毎日でした。
 
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ただ悶々としていても仕方がない、前立腺がんのこと、治療法のことを知ろうと思い立ちました。こういうとき役立つのがインターネットです。前立腺がんに関する多くのサイトを訪問しました。
 
まず知ったのは、早期がんであれば、前立腺全摘除術で完治できるということでした。前立腺をすべて取り除き、膀胱と尿道をつなぎ合わせる手術です。しかし、この外科手術には、約3〜4週間の入院を要し、術後合併症として尿失禁(尿もれ)や勃起機能不全(インポテンツ)が起きる可能性があります。
 
尿失禁は通常は長い人でも2〜3ヶ月以内で起こらなくなりますが、5〜10%の人にときにパッドが必要な尿失禁が持続するそうです。勃起機能不全については、それを防ぐために、勃起に関連する神経や血管を温存する手術法がありますが、がんが残る可能性があり、慎重に行わなけばならなようです。
 
次に、『ヨウ素125 線源を用いた小線源療法(ブラキセラピー)』という新しい放射線治療が日本でも認可されたことを知りました。この治療法は、直径約 0.8mm、長さ約 4.5mmのチタン製容器に、微量の放射線を出すヨウ素125 という物質を密封したものを約 70〜100個、前立腺に永久的に挿入して治療する方法です。
 
この方法は、アメリカでは15年以上前より行われていて、一般的な治療として既に確立され、最近では前立腺全摘除術を受ける人とほぼ同数の人がこの方法を受けているそうです。日本でも2003年に認可され、全国の約10の施設でこの治療が施行されています。
 
小線源療法は、入院期間が4〜5日ですみ、治療直後の尿失禁はほとんどなく、性機能も維持されやすいということですから福音です。ただし、この治療法は進行した前立腺がんや再発例には無効ということですから、やはり早期発見が肝要ということになります。
 
早期がんであれば、小線源療法という極めて有効な治療法があるということを知ったときは、光明が射した思いがしました。著者の願いは、生検の結果が陽性にでても、早期がんであれば良いという願いに変わったものです。
 
今回は、幸いに急性前立腺炎ということで事無きを得ました。そして、怪我の功名として、今回の経験で、前立腺がんは早期発見できれば決して怖いがんではないということを知りました。早期発見にはPSA検査という有効な方法があります。50歳以上の男性の方には、年一回のPSA検査をおすすめします。
 
【参考サイト】
・前立腺(Prostate)- Wikipedia
前立腺がんに対するヨウ素125線源を用いた小線源療法(ブラキセラピー)

 

2007.01.10 
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