レポート | ・ネクターガイド |
− ネクターガイド −
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ネクターといえば、果実をすり潰して作られた、濃厚な味わいのあるソフトドリンクが思い浮かびますが、ネクター(nectar)とは本来は、おいしい飲み物、美酒を意味する英語で、植物学では『花蜜』のことです。 したがって、ネクターガイド(nectar guide)とは、被子植物、特に虫媒花に見られる、虫に蜜のありかを知らせる印のことで、日本語では『花蜜標識』あるいは単に、『蜜標』と言われます。 生き物の究極の使命は子孫を残すことですが、動物のように自由に動き回って生殖行動をすることのできない植物は、おしべの花粉を風に任せて飛ばして周囲の花のめしべに受粉させるか、または花粉を昆虫(以下虫と呼ぶ)の体に付けて同じ種類の花まで運ばせるかの方法をとっています。 前者の方法をとる花を『風媒花』、後者の方法をとる花を『虫媒花』と言います。虫媒花では、花蜜を餌にして蜂などの虫を花に惹(ひ)き寄せるわけですが、どうやって蜜のありかを虫たちに知らせているかです。 1.花弁に斑点模様がある花 例えば、薄ピンク系のツツジやシャガ(著莪)の花の花弁には斑点模様があります。これらの花では、この斑点模様がネクターガイド(蜜標)になっています。薄ピンク色のツツジでは斑点模様はだいたい上部にある1枚の花弁だけについていて、蜜腺のある花の奥まで続いています。 シャガの花では、オレンジ(黄)色と青(紫)色の斑点がネクターガイド(蜜標)で、オレンジ(黄)色の斑点模様が蜜腺のある花の奥まで続いています。
2.花弁に斑点模様がない花 花弁に斑点模様がある花ばかりではありません。むしろ花弁に斑点模様のない花の方が圧倒的に多いです。例えば、写真3に示すように、濃いピンク色のツツジには斑点模様がありまん。斑点模様のない花はどうやって虫に蜜のありかを知らせているのでしょうか。 実は、斑点模様のほかに、蜜腺付近から紫外線を出す(正確には反射させる)ことによって虫に蜜のありかを知らせる機能を持っているのです。人の眼では紫外線を感知できませんが、虫の眼は紫外線を感知できることが分かっています。
3.人と虫の視感度 人の眼で感知できる、波長が約 380nmから 780nmの間の光(色)を可視光線と言い、それより波長が短い、波長約 200nm〜 380nmの光を紫外線、逆に可視光線より波長の長い、波長約 780nmから1mmの光を赤外線といいます。なお、nmは長さの単位で、ナノメートルと読み、1メートルを10億等分した長さを表します。 図1に示すように、人は可視光線の中でも波長が約 550nm付近の光(黄緑色)を最もよく感じます。一方、虫は人が感じることのできない紫外線域を感知することができ、波長が約 360nm前後の光(紫外線)を最もよく感じます。
4.人には見えないが、虫には見えるネクターガイド したがって、花は花弁の蜜腺に近い部分から紫外線を出すことによって、虫に蜜のありかを知らせることができるわけです。これがネクターガイドになっているのです。写真4で、ミゾホオズキの花を紫外線で見ると黒くなった部分があり、それが蜜腺のある花の奥まで続いていることがわかります。この黒い部分がネクターガイドです。
ネット検索すると、花を可視光線で見たときと紫外線で見たときの比較画像をたくさん見ることができます。たとえば、下記のサイトでタンポポの画像を見ることができます。 ・東邦大学「見える世界と見えない世界」【2007年2月号】(4) → https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/200702.html 5.まとめ (1)花が虫に蜜のありかを知らせるための印をネクターガイド(蜜標)という。 (2)花は、人は見ることはできないが虫は見ることのできる紫外線を蜜腺付近か ら出すことによって、虫に蜜のありかを知らせている、すなわちこれをネクタ ーガイドにしている。 (3)花の花弁にある斑点模様は、虫に蜜のありかを知らせるネクターガイドを目 的にしたものである。 【参考サイト】 (1)株式会社ECOP_紫外線と虫の関係 (2)人と虫の視感度曲線(虫対策|コンセプト|岩崎電気) (3)Wikipedia - Nectar guide (4)東邦大学「見える世界と見えない世界」【2007年2月号】 |
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