レポート  ・ベイツ型擬態とミューラー型擬態   
 
ベイツ型擬態とミューラー型擬態 
 
§1 黄色と黒(警戒標識)
 
黄色のように目立って、視認者に対して飛び出しているように見える色を『進出色』といい、逆に黒色のように目立たず、奥にあるように見える色を『後退色』といいます。黄色(進出色)と黒色(後退色)の組み合わせは、黄色(進出色)を際立させる効果を持ち、人工物・自然界を問わず、『警戒標識』として利用されています。
 
踏切の遮断機の黄色と黒の模様、道路標識の黄色地に黒のマークがそうであり、自然界ではスズメバチやアシナガバチあるいはミツバチの黄色と黒の縞模様がそうです。これらの蜂はその体色によって、毒のある危険な昆虫であるぞと他の昆虫に警告を発しているのです。 
 
(c)ミツバチ
(b)スズメバチ
 (a)アシナガバチ
写真1 毒をもつ蜂(ミューラー型擬態)
 
§2 ベイツ型擬態
 
ハエやブユの仲間にアブ(虻)という昆虫がいます。ヒトを刺す害虫で、刺されるとその瞬間、チクッとした痛みがありますが、スズメバチやアシナガバチのような毒はもっていません。
 
アブはハエの仲間でありながら、スズメバチやアシナガバチやミツバチによく似た黄色と黒の縞模様の体色をしていて、さも危ないぞという印象を与えます。アブはいわば、毒のある蜂の威を借りているわけです。
 
アブのように、本来無害な種が捕食者による攻撃を免れるために、有害な種に自らを似せるという擬態を『ベイツ型擬態』といいます。名前は、ブラジルの熱帯林におけるチョウの研究をもとにこの様式の擬態を報告した、イギリスの博物学者ヘンリー・ウォルター・ベイツにちなんで付けられました。 
 
 (b)ヒラタアブ
 (a)ハナアブ
写真2 無害なアブ(ベイツ型擬態)
 
 §3 ミューラー型擬態
 
南北アメリカ大陸の熱帯域に生息するドクチョウ(毒蝶)属のチョウは、有毒成分を含む植物を食べで、その有毒成分を体内に蓄積しているため、鳥がこれらの蝶を捕食すると嘔吐(おうと)し、二度とこれを食べないそうです。
 
このドクチョウ属のチョウは種をこえて、似たような、赤、黄、橙、黒などの色の組合せの鮮やかな斑紋(はんもん)をもっています。毒を持つ危険な蜂や蝶などが、種をこえて共通な模様や色彩、形状をしているのはどうしてでしょうか。
 
毒を持っていたり、食べたら嘔吐をしたりするような、嫌な昆虫などであっても、捕獲者に危険だということを学習させるためには、一匹の捕獲者に対して少なくとも一匹の犠牲者が必要になります。
 
南北アメリカ大陸の熱帯域に生息するドクチョウ属のチョウは、ミューラー型擬態の典型的な例としてよく挙げられる。(ミューラー型擬態 - Wikipedia より転載)
 写真3 有毒のドクチョウ属のチョウ(ミューラー型擬態)
 
南米ブラジルでチョウの採集・観察をしていたドイツの動物学者フリッツ・ミューラーは、上述のリスクを最小限にするためには、毒を持つものどうしや、食べたら嫌な味のするものどうしが、同じ模様の体色になれば良いのではないかと考えました。
 
ある捕獲者に対して、種をこえて同じ体色をもつ一匹の犠牲者がいれば、それと良く似た他の種の個体が同じ捕食者に襲われるリスクは減ってくるわけです。このように有毒なあるいは味の悪い昆虫などが、種をこえて互いによく似た模様、色彩、形状をして捕獲を免れることを『ミューラー型擬態』といいます。
 
ベイツ型擬態にしろ、ミューラー型擬態にしろ、捕獲者から身を護るための擬態(他のもののようすや姿に似せること)、面白いです。
  
 2022.01.26

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