レポート  ・鬼女紅葉伝説   
 
− 鬼女紅葉伝説 −
2013年11月の最後の週末、京都を散策する機会を得ました。紅葉の盛りがピークで、東山界隈の紅葉はどこも、度肝を抜かれるぐらい鮮やかで凄かったです。その美しさに魅せられつつ、三橋鷹女の句を思い出します。
 
  この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉  三橋鷹女
 
枝に真っ赤な紅葉をたっぷり蓄えた樹が夕日に照り映えています。紅葉の恐ろしいほどの美しさを詠んだ句ですが、鷹女は、信州の戸隠(とがくし)に残る鬼女紅葉伝説(能の代表的演目『紅葉狩』としても著名)を下敷きにして、この句を作ったといわれます。
 
その美しさに魅せられて、もしこの紅葉の樹に登ったならば、間違いなく、あの鬼女紅葉伝説(きじょもみじでんせつ)の鬼女のようになるに違いない、と読み取ることができます。
 
〔鬼女紅葉伝説
 
紅葉(もみじ)は、鬼女紅葉伝説の主人公の名前です。平安の頃、子供に恵まれなかた会津の伴笹丸(とものささまる)と菊世(きくよ)夫婦は、第六天の魔王に祈った甲斐があって、女児を授かり、呉葉(くれは)と名付けました。
 
娘が才色備えた美しい女性に成長すると一家は都に上ります。呉葉は紅葉(もみじ)と名を改めて琴を教えはじめていると、ある日、源経基(みなもとのつねもと)の御台所の目にとまり、屋敷にあがってその侍女となりました。
 
紅葉の美しさは経基の目にも止まり、召されて経基と夜を共にします。経基の子を宿すと、紅葉は経基の寵愛を独り占めにしたいと思うようになり、妖術を使って御台所を呪い殺そうと計りますが、それが露見して捕らえられ信濃の戸隠(現長野市戸隠)へ流されてしまいました。
 
まさに紅葉の時期の秋、紅葉は水無瀬(みなせ、現在の鬼無里(きなさ))に辿り着きました。村びとは美人で京の文物に通じた紅葉を尊び、紅葉も村人に裁縫や読み書きを教え、病に苦しむ者があれば妙薬を施すなどして喜ばれます。
 
しかし、恋しいのは都での暮らし。紅葉の心は次第に荒んでいき、京に上るため軍資金を集めようと、一党を率いて戸隠山に籠り、夜な夜な他の村を荒しに出るようになりました。この噂が戸隠の鬼女として京にまで伝わっていくと、朝廷は平維茂(たいらのこれもち)に鬼女退治を命じます。
 
維茂は多くの兵を連れて討伐に向かいましたが、紅葉の妖術に太刀打ちできません。かくなる上は神仏の力にすがる他なしと、維茂は観音に参籠し、必勝祈願をします。そうすると紅葉の妖術は無効化され、 969年(安和2年)呉葉=紅葉33歳の晩秋ついには征伐されました。これ以降、村は鬼無里と呼ばれるようになったといわれます。
 
〔紅葉狩(能)〕
 
美しい紅葉の情景の中で平維茂の鬼退治を描く能の一曲。場面は信濃国戸隠。若い美女が数人連れ立って紅葉見物にやってきて、紅葉の絶景の中で幕を巡らし宴会となります。そこへ馬に乗り供の者を従えた平維茂の一行が鹿狩りにやってきました。楽しげな宴会が開かれているのを発見した維茂は、供の者に様子を見てこさせます。
 
しかし、美女一行は素性を明かしません。そこで、維茂は馬を降り通り過ぎようとしますが、どうかお出でになって、一緒に紅葉と酒を楽しみましょうと誘惑されます。無下に断ることもできず宴に参加した維茂でしたが、美女の舞と酒のために不覚にも前後を忘れてしまいました。
 
美しい舞は突如激しい舞になり美女の本性を覗かせますが、維茂は眠ったままです。女たちは目を覚ますなよと言い捨てて消え去ります。ここで場面は夜となり、八幡宮の神が現れ、維茂の夢中に、美女に化けた鬼を討ち果たすべしと告げ、神剣を授けます。
 
覚醒した維茂は、鬼を退治すべく身構え、嵐と共に炎を吐きつつ現れた鬼と打ち合い、激闘の末ついに鬼を切り伏せることに成功しました。
 
〔三橋 鷹女〕
 
みつはし たかじょ。1899年(明治32年)−1972年(昭和47年)。千葉県に生まれ、高校卒業後、若山牧水、与謝野晶子に私淑。俳人であった歯科医師と結婚し、俳句の手ほどきを受ける。昭和期に活躍した代表的な女性俳人として、中村汀女・星野立子・橋本多佳子とともに4Tと呼ばれましたが、4人のなかでも表現の激しさと前衛性において突出した存在でした。代表的な句に、
 
  鞦韆は漕ぐべし愛は奪うべし  
  夏痩せて嫌ひなものは嫌ひなり                
  ひるがほに電流かよひゐはせぬか
  つはぶきはだんまりの花嫌ひな花
 
などがあります。(注)鞦韆(しゅうせん)=ブランコのことで、春の季語。
 
参考サイト
(1)紅葉伝説 - Wikipedia
(2)鬼無里村 - Wikipedia
(3)鬼無里の伝説|おでやれ鬼無里
(4)紅葉狩 (能) - Wikipedia
(5)三橋鷹女 - Wikipedia
 

  2013.12.11
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