コラム  ・ジョウビタキの北帰行   
 
− ジョウビタキの北帰行 −
昨年(2020年)の秋にやってきた一羽のオスのジョウビタキ(尉鶲)がわが家の近辺を縄張りにして過ごしてきました。初めて写真に撮ったのが11月4日のことで、その日より一週間くらい前には鳴き声を聞いていたので、10月末頃にやってきたものと思われます。
 
そのジョウビタキが、面白いことに、深い庇(ひさし)のある居間の濡れ縁にやってきて居間を覗くようになりました。その濡れ縁の庇の前面にはよしずの簾(すだれ)が吊り下げてあるのだけれど、その下をうまくくぐって中に入ってきます。
 
庇の天井には東南アジア産の竹風鈴が下がっていて、それをまるで呼び鈴のように鳴らします。そうこうしてうちに、乾燥したミルワーム(ゴミムシダマシ科の甲虫の幼虫)を餌として置いてみると、突くようになり朝昼晩やってくるようになりました。
 
餌を与えすぎると自分で餌を探さないようになると困るので、昼は与えないようにしました。そのようにして、朝夕2回、餌を食べにきていたジョウビタキが3月13日の夕方食べにきたのを最後に、ぷっつり来なくなりました。
 
北へ飛立ったものと思われます。餌をまいていた空調機の屋外機の上には、3月14日の朝置いた餌が今も残ったままです。10月末から3月中旬まで約4カ月半の滞在だったわけです。
 
ジョウビタキは、チベットから中国東北部あるいはロシア南東部で繁殖し、秋から冬にかけての非繁殖期になると日本などに渡ってきて越冬する冬鳥です。その渡りの距離は片道 2,000キロメートルに及ぶといわれます。
 
体長が13.5〜15.5cmほどの小さな鳥が片道 2,000キロメートルもの距離を渡るのはとてもリスクが大きいと思われますが、餌のない寒い国で冬を過ごすより危険を冒してでも暖かい国に渡った方が、生きるのに有利だということなのでしょう。
 
さて、ジョウビタキには、雀など他の鳥には見られない特徴的な習性の一つに、群れをなさず、一対のオスメスであっても非繁殖期は単独生活を行い、縄張りを作って同種を排斥するという習性があります。
 
従ってわが家で見かけるジョウビタキは常に一羽で、それも同じ個体のジョウビタキだったわけです。群れをなさず単独で毎日を過ごしてきたジョウビタキですが、渡るときはたくさん集まって集団で渡るのでしょうか、一羽単独で渡るのでしょうか。
 
ツバメは集団ではなく、一羽ずつ飛んで渡るそうです。それは、大型の鳥と違って小さい個体は身体能力にばらつきがあるため、各個体がそれぞれ自分の判断で目的地を目指す、天敵に見つかりにくいように単独行動をするなどの理由によるそうです。
 
約 2,000キロメートルもの距離を飛んでいるのに、迷うことなく寒い国、暖かい国を行き来することができるのはとても不思議です。昼間渡る鳥たちは、太陽の位置を目印にして渡るべき方向を把握し、夜間に渡る鳥たちは星座をたよりに飛ぶそうです。
 
また、山並みや海岸線などの特徴的な地形をしっかり記憶していて、それを頼りに飛ぶという説もあるそうです。ジョウビタキがどのような形態で、どのような能力で渡るのか分かりませんが、道中の無事を祈らずにはいられません。
 
ジョウビタキは同じ場所に渡っているに違いないという記事のブログも見られます。今年の10月末に同じ個体が渡ってきて、居間を覗きにきてくれたら嬉しいです。余ったミルワームの餌はそのときまでしっかり冷蔵庫で保管して置きます。
 
わが家のジョウビタキ(オス)(2020.11.04撮影)
庭木にとまったジョウビタキ(2020.11.04撮影)
電線にとまったジョウビタキ(2020.11.11撮影)
ジョウビタキが遊びに来ていた居間の濡れ縁
ジョウビタキがよく鳴らした竹風鈴
餌(ミルワーム)をついばむジョウビタキ(2021.03.12撮影)
餌をついばむジョウビタキ(2021.03.12撮影)
餌をついばむジョウビタキ(2021.03.12撮影)
 ジョウビタキが帰って、置いたままになった餌(2021.03.17撮影)
 乾燥ミルワーム
(写真はいずれも鹿児島県さつま町の自宅で撮影)
 

  2021.03.17
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