俳句鑑賞  春・花衣   
 
− 俳句鑑賞 春・花衣 −
シニア世代向けインターネットサイト『SlowNet』(スローネット )のサークル句会で今回(2013年4月前半)もたくさんの作品を楽しく鑑賞させて頂きました。その中から特選と秀句に選ばさせて頂いた句の紹介と鑑賞です。
 
    帯ぽんと叩く今年の花衣  方 舟
 
『花衣』(はなごろも)とは、花見のときに着る女性の晴れ着のことで、春の季語です。昔は表が白で裏が蘇芳(すおう)色をした桜襲(さくらがさね)の色目のことをいったが、今は花見の時の衣服全般をいう、と俳句歳時記(角川書店)にあります。
 
帯を締めているからきものですね。装いが整って、ぽんと帯を叩いて、よっしゃ!と、心もち気合を入れます。本来、花見に行くのに気合など必要ないのですが、今年の花見は思うところがあって、ちょっと気合が入ります。
 
どんな気合なのでしょうか。例えば、旅館組合の花見を兼ねたおかみさんの集まりで、ちょっと物申すつもりなのかも知れません。そんなことをあれこれ想像してみるのも、俳句鑑賞の一つの楽しみ方です。
 
    家ぢゆうをまつさらにせむ春一日  kinoto
 
天気の良い春の一日、縁側の窓から背戸の窓まで全部開け放って、部屋の空気を入れ替えます。余計な物を処分して部屋を片づけて、家中を真っ新に。春の日に、心機一転、新しい年度の一年が始まります。
 
    置き去りにされたるやうな朝寝かな  昇 峰
 
冬の朝は寒くって目が覚めてもなかなか布団から出れずにいましたが、寒くなく暑くもない春の朝は、格別の寝心地で、うつらうつらとつい寝過ごしてしまいがちになります。というので、『朝寝』は春の季語になっています。
 
朝寝をすると、置き去りにされたような気分になる。悠々自適の老後、朝寝したって一向に差し支えないし、とやかくいわれることもないのですが、朝寝って、本来そういうものなのですね。分かり切ったことが殊更に詠まれているのが面白いです。
 
    お使いは花が乱舞の道を行く  そよかぜ
 
幻の童謡詩人・金子みすゞの生まれ故郷、山口県長門市仙崎に極楽寺というお寺があります。そよかぜさんのこの句を読んだとき、”極楽寺のさくらは、八重ざくら、八重ざくら、使いにゆくとき、見て来よ”で始まる金子みすゞの『極楽寺』という詩を思い出しました。
 
『お花見は花が乱舞の道を行く』では俳句になりません。『お使いは』で句が生きてきます。お母さんにお使いを頼まれた、おそらく女の子でしょう。桜が満開で乱舞している道を通ります。あるいは、大勢の人たちが楽しそうに花見の宴を催しているのかも知れません。爛漫の桜に見惚れながらも、心はお使いのことが気がかりで、足早に通り過ぎます。少女のちょっと寂しい気持ちと健気さが伝わってきます。
 
    小綬鶏の案内にまかす尾根の道  しんい
 
『小綬鶏』(コジュケイ)は、キジ目キジ科の、比較的標高の高いところにも生息する全長27pくらい鳥で、春の季語になっています。尾根伝いの道をトレッキング(山歩き)中、姿は見えないけど、小綬鶏の鳴き声が聞こえてきます。
 
それだけでも風情ある風景ですが、その小綬鶏に道案内をまかそうというのです。実際に小綬鶏が道案内をしてくれるわけではなく、小綬鶏の鳴き声が日本語で『ちょっと来い』『ちょっと来い』と言っているように聞こえるのが道案内をしているようだ、と詠んでいるのです。
 
    ゆらりゆら地蔵も酔ふや花見酒  利 明
 
花見の会場からお地蔵さんが見えます。あるいは、花見の帰り、道端でお地蔵さんと出会いました。お地蔵さんもしこたま花見酒を飲んだらしく、ゆらりゆらと酔っぱらっていますが、実は、ゆらりゆらと揺れているのはお地蔵さんではなく作者本人なのです。
 

  2013.04.14
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