レポート  ・銀の匙   
 
銀の匙
中勘助・著『銀の匙』(ぎんのさじ)という小説があります。2003年に岩波書店が行った「読者が選んだわたしの好きな岩波文庫100」というフェアで、第1位「こころ」 、第2位 「坊ちゃん」 (以上、夏目漱石)についで、第3位に入った小説。
   
中勘助(なか・かんすけ、1885年〜1965年)が27歳の大正元年(1912年)に書き上げ、夏目漱石の推薦によって「東京朝日新聞」に連載された小説で、岩波書店、角川書店、新潮社から文庫本が出版されています。 200ページのそう厚くない文庫本です。
  
古い机の引き出しの中から幼いころ薬を飲むために使った銀の匙が見つかり、その想い出とともに、明治時代中期の幼児期から17才の青春期までを回想する自伝風の小説です。
  
病弱だった主人公は、もっぱら伯母さんに育てられます。伯母さんに連れられてよく行った神田明神の祭礼や小石川に移ってはじめて知った屋敷町、閻魔(えんま)様や大日(だいにち)様の縁日、貞ちゃんと遊んだ少林寺のお寺などの四季折々の風情が歳時記風に描かれてます。
  
そして、豊かな感性と深い洞察力でもって、幼少年期の多感な感触が感じ取った真実を美しく精巧なタッチで描ききっていきます。いつまでも読み継がれて欲しい黄金の一冊だと思います。
  
またこの小説は、国語教師であり国文学者であった橋本武(はしもと・たけし、1912年〜2013年)が灘中学校に奉職中(1934年〜1984年)の戦後、いっさい教科書を使わず、この一冊の小説を3年間かけて読み込む授業を行ったことでも知られています。
  
その理解と解釈の深い掘り下げ方に授業は遅々として進まず、生徒から「この進捗では 200ページを3年で消化できないのでは」という声があがりますが、橋本は「すぐ役に立つことは、すぐに役立たなくなる」としテーマの真髄に近づき問題をきちんと理解できるかどうか『学ぶ力の背骨』を生徒が物語から学ぶよう教鞭を取りました。
  
この時の教室にいた生徒に、東大総長・濱田純一、神奈川県知事・黒岩祐治、弁護士・海渡雄一、阪急電鉄代表取締役社長・角和夫、東京高等裁判所長官・山崎敏充、NHKエンタープライズ常務取締役国際事業センター長・平賀徹男、作家・中島らもらがいるそうです(出典:銀の匙 - Wikipedia)。
  
この小説は、青空文庫(著作権が消滅した作品や著者が許諾した作品のテキストを公
開しているインターネット上の電子図書館)でも読むことができます。
  → https://www.aozora.gr.jp/cards/001799/files/56638_61335.html
 
【備考】
・『銀の匙(さじ)』(書籍のご案内・book)
  → https://washimo-web.jp/BookGuide/BookGuide3.htm
・雑感 〜 いつまでも読み継がれて欲しい本 −『銀の匙』
  → https://washimo-web.jp/Report/Mag-Kin-no-saji.htm

 
  2020.08.26
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