書籍紹介  ・最近読んだ本/お薦(すす)めの一冊(5)   



【書籍のご案内・book】

(本の表紙とは関係ありません)
『花まんま』

朱川湊人著/文藝春秋/2005年4月第一刷発行/定価1571円

俊樹10歳のとき、3つ違いの妹フミ子がある日突然、自分は小さい頃胸を刺されて死んだ女の子の生まれ変わりだと言い出す。5月の連休、お母ちゃんには天王寺動物園に行くと言って、二人は彦根に向う〜表題作『花まんま』の他に、あの日、死んだチェンホが私の部屋に現れた〜『トカビの夜』、おっちゃんの葬式で霊柩車が動かなくなった理由とは〜『摩訶不思議』、人の耳元で囁くと必ず死に至る呪文を操る〜『送りん婆』、墓場で出会った蝶のように美しい女性は今どこに〜『凍蝶』。60年代から80年代の昭和の、いずれも大阪の下町を舞台にした短編集。各編ごとにそれぞれ異なる不思議な出来事が、当時少年少女だった語り手によって語られる、ほんわか感涙大人のファンタジー短編。但し、大人を知らぬ少女を虜にした、その甘美な感触〜『妖精生物』は、郷愁で終わる他の物語とは一味違った作品で印象深いでした。第133回(2005年上半期)直木賞受賞作。(2007.04.15)


【書籍のご案内・book】
『わたしを離さないで』

カズオ・イシグロ著/土屋政雄訳/早川書房/2006年4月発行/定価1800円(税別

代表作『日の名残り』に比肩すると評され、英米でベストセラーとなったカズオ・イシグロ氏の最新長編。自他共に認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話しています。自らも、提供者が生まれ育った施設へールシャムの出身であるキャシーの回想は、へールシャムの驚くべき真実を明かにしていきます。提供者として生きる以外に選択肢を持たずに生まれてきた仲間たちは、自らの生きるべき運命にうすうす気づきながらも、生きる意味を見出し自らの生を精一杯生きようとします。遺伝子工学や医療技術の進歩によって、近未来に現実のこととならないとも限らない人間社会のおぞましい姿を描きながらも、イシグロ氏の抑制のきいた語り口調は、その深刻さを強調するよりもむしろ静かな感動を与えながら、読者に物語の背景にあるものを考えさせようとします。時間をかけてもよいので、じっくり読んで欲しい本です。(2007.02.04)


【書籍のご案内・book】
『一葉樋口夏子の肖像』

杉山武子著/績文堂/2006年10月発行/定価1800円(税別

糊口(ここう)のために書くことを学び始めたものの、慢性的な借金生活に甘んじながらも、書くことの意味を問い続け、明治の文学を先駆けた一葉樋口夏子。本の著者が一葉に本格的に出会ったのは20代半ばの頃。著者はそれ以来、天才女流作家としではなく、もっと自分に引き寄せ、明治という時代の中で生き、悩み、喜び、輝いた樋口一葉を、等身大の一人の女性として捉えてみたいとずっと願い続けてきました。一葉の心の動きや生活ぶりを知る一番の手がかりである一葉の『日記』を軸にしながら、著者はそこから自ずと立ち上がってくる一葉樋口夏子の肖像を今この本であぶり出します。和歌塾・萩の舎(や)の上流階級に混じり、上野の図書館に通い、文壇の大家たちと出会い、帝大一高の学生たちと交流する一方で、遊廓に寄生する貧民街の暮らしを体験し、銘酒屋の女たちを知り、明治の風俗にも直接触れた一葉。そのような中で独自の雅俗折衷の文体が書くべき対象をはっきりつかんでいきます。樋口一葉の素顔を知るお薦めの一冊。(2007.01.01)


【書籍のご案内・book】
『日の名残り

カズオ・イシグロ著/土屋政雄訳/早川書房/2001年5月発行/定価720円(税別

品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出ます。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎります。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々−過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続けますが、旅の終りの落日のなかでスティーブンスに見えてくるものは・・・。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。邦訳文も読みやすく、お薦めの一冊です。著者カズオ・イシグロ氏は、1954年長崎生まれ。5歳のとき家族と共に渡英、ケント大学で英文学を、イースト・アングリア大学大学院で創作を学び、1982年の長編デビュー作『女たちの遠い夏』で王立文学協会賞を受賞。1986年にはウィットブレッド賞、そして本著でブッカー賞を受賞。(2006.09.26)


【書籍のご案内・book】
『東京タワー 〜 オカンとボクと、時々、オトン 〜

リリー・フランキー・著/扶桑社/2005年6月発行/定価1575円(税込)

『泣き顔を見られたくなければ電車で読むのは危険』という口コミで、2005年の6月発売以来155万部を突破する大ベストセラーとなり、全国の書店員が最も売りたい本を投票で選ぶ『本屋大賞2006』を受賞した本です。文章家、コラムニスト、絵本作家、イラストレーター、作詞・作曲家などなど、ジャンルを越えて活躍するリリー・フランキー(本名、中川 雅也、1963年11月4日福岡県北九州市生まれ)さんが、自身の少年時代、青春の彷徨、そして、「オカン」と過ごした最期の日々までをリアルに描いた、初の長編作品。『ポケットの中に納められた百円は貧しくはないが、ローンで買ったルイ・ヴィトンの札入れにある千円の全財産は悲しいほど貧しい。』 本当の豊かさとは何か、そして今次第に失われつつある普遍的な母と子、子と父の絆、友情。お薦めの一冊です。(2006.04.30)


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(C)角川書店
『アルケミスト 夢を旅した少年

パウロ・コエーリョ・著/山川絋矢+山川亜希子・訳/角川文庫/1997年2月発行/定価\552

スペインの羊飼いの少年サンチャゴは、ある夜ピラミッドのそばで宝物を見つける夢をみます。行くべきか、とどまるべきか。「もしかして自分は行けたかもしれない・・・と何度も考えてしまうだろう。なぜなら、引き止めたものは、おまえ自身の恐れからだったからだ。その時、おまえの宝物は永久に埋もれてしまったと、前兆は語るだろう。」「前兆を読んで行くんだ。」 少年は、長い時間を共に過ごした羊たちを売り、夢を追ってエジプトへ旅に出ます。そして、錬金術師(アルケミスト)の導きと旅のさまざまな出会いと別れのなかで、人生の知恵を学んでいきます。欧米をはじめ、世界中でベストセラーになり、サン・テグジュペリの「星の王子さま」に並び称されるほどの賞賛を浴びた夢と勇気の物語。困難に打ち克ち、エジプトにたどり着いた少年が最後に宝物を見つけた場所は? 下手な自己啓発やビジネス本を読むより、ずっと背筋をシャンとさせてくれる本です。夢にかけたいと思っている人、岐路に立ち止まっている人、そしてふと人生を振り向いている人にも、お薦めの本だと思います。(2006.04.25)


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(C)新潮社
『きらきらひかる』

江國香織・著/新潮文庫/1994年5月発行/定価\420

主人公の笑子は、情緒不安定で、軽いアルコール依存症。夫の睦月は医者だが、ホモで紺という男の恋人がいる。何もかも承知で結婚した二人。ただ一緒に暮らすだけできらきら光っておれる笑子と睦月だが、周囲からの干渉は二人を押し潰そうとする。相手を思いやることがまた相手を窮屈にし、傷つけてしまう。それでもなお、愛することをやめられない。アル中女とホモ男という設定で、肉体関係を100%切り離してプラトニックラブに純化した小説。セックスレスの奇妙な夫婦関係から浮かび上る誠実、友情。男女は何に魅かれて恋愛をするのか? 肉体関係なしに深い恋愛は成り立つのか? 恋愛の本質は? そんなことを考えさせます。ホモ男とアル中という設定に最初は違和感を感じますが、静かで綺麗な小説。いつまでも印象に残っている一冊です。(2006.04.11)


【書籍のご案内・book】
『国家の品格』

藤原正彦・著/新潮新書/2005年11月20日発行/定価\680(税別)

作家・新田次郎と藤原ていの次男で、お茶の水大学教授の数学者・藤原正彦氏が書いた日本人論。昨年11月に発売後1ヶ月で20万部を突破したベストセラー。日本人は、『情緒と形』という世界に誇れる普遍的価値を持っていながら、今、グローバリズムや金銭至上主義の前にそれを忘れかけようとしている。グローバリズムがもたらす効率性や論理や合理だけではうまく行かない、何かを付加しなければならない。それは、日本人のもつ『情緒と形』である。市場経済による弱肉強食の世界こそ、『惻隠(そくいん)の情』が、重要な徳目であると著者は指摘します。いま、必要なものは、論理よりも情緒、英語より国語。品格ある国家の指標とは、独立不羈(ふき)、高い道徳、美しい田園、そして学問・文化・芸術などにおける天才の輩出であると。「日本は、金銭至上主義を何とも思わない国々とは一線を画し、国家の品格をひたすら守ることである」といいます。すべての日本人に誇りと自信を与え、「成熟した判断」を育むために参考になる一冊。(2006.01.02)


【書籍のご案内・book】
『いつかパラソルの下で』

森 絵都著/角川書店/2005年04月発行/定価\1,400+税

野々は、家賃を浮かす狙いもあって何回か同棲を繰り返してきた25歳の独身女性。野々と兄と妹は、自分の生き方や性格を、迷惑すぎるほど厳格だった父のせいにしたがる。その父が交通事故で亡くなって、職場の部下と不倫関係にあったことが発覚する。あんなに厳格だった父が、三人には、信じられない。父は、どんな人間だったのか? 兄弟三人は、父親の足跡を追って、生前一度も話しに出したことのなかった父の故郷・佐渡へ渡る。自分にとって、親とは、兄弟とは、恋人とは何なのか・・・。重いテーマを取り上げながらも、主人公のキャラクターが小説全体をどこかユーモラスで明るいものにしている。数々の児童文学賞を総なめにした児童文学作家・森絵都(1968年生まれ)が書き下ろした大人のためのハートウォミングストーリー。第133回直木賞候補作品。(2005.08.31)

【書籍のご案内・book】
『孤独の海−奄美大島、南北いずれ−』

藤山 喜要著/日本図書刊行会/2004年10月発行/定価\1,400+税

水は方円の器に随(したが)う喩(たとい)。みずからのアイデンティティを少しずつ削りながらの七百数十年。十三世紀の琉球、十七世紀初頭の薩摩支配。時代はずっと下って太平洋戦争・敗戦、その翌年に米軍直接の信託統治地。その間の時代の変遷は凄まじく、南海の波間に漂い、沈んだ人々の数しれず、到底言語に尽くせるものではない。身の程知らずもそれを写し取ろうと試みた。しかし乏しい史料、ようやく集め得ても難解な文献、七転八倒の末に書き上げたのが私の『孤独の海』という作品となった。思い起こして溜め息つく。知られざるわが奄美の歴史、一人でも多くの方が読んで下さることを願うものである。〜(株)日本図書刊行会公式HPの著者が語るより〜(2005.05.24)

【書籍のご案内・book】
『きみに読む物語』
ニコラス・スパークス著/ 雨沢 泰訳 新潮文庫/1997年3月発行/定価\2,205
                  アーティストハウス/2004年12月発行/定価\1,470


ある夏の日の運命的な出会い、ひと夏の燃えるような初恋。二人は育ちの違いを乗り越えて恋愛結婚します。幸せな結婚生活、夫は60年間、ひたすら妻を愛し続けました。しかし、やがてやってきた人生の冬。妻は、アルツハイマー病を発病し夫の記憶を失ってしまいます。記憶をなくした妻に夫は、二人が出会い、別れ、そしてしてまた恋に落ちた自分たちのラブストリーを毎日根気強く読み聞かせるのでした。永遠に一人の女性を愛する男性の姿を描いたこの小説は、介護をめぐる純愛を取り上げた小説でもあります。全米では発売と同時に450万部以上を売り上げ、映画化もされました。日本では、2005年2月5日、全国松竹・東急系でロードショー公開されます。新潮文庫とアーティストハウスから発行されています。(2005.02.10)

【書籍のご案内・book】

(C)新潮社 
『海からの贈物』

アン・モロウ・リンドバーグ著/吉田健一訳
新潮文庫/1967年7月発行/定価\400


多忙な日々の中で孤独な時間をもつことが、内的世界を充実させるためにいかに重要か。ニューヨーク〜パリ間の大西洋単独無着陸横断飛行に成功したアメリカの飛行家・リンドバーグの妻であり、みずからも世界の女流飛行家の草分けである著者は、家族や日常生活と離れ、つかの間を離島の浜辺で過ごします。『つめた貝は我々に孤独ということを教える。』 ほら貝、つめた貝、日の出貝、牡蠣(かき)、たこぶね、そして幾つかの貝。浜辺で拾ったり人から貰った貝の姿に擬(なぞら)えて、現代に生きる人間なら誰でもが直面しなければならない人生のいくつかの局面について、自分自身を相手に淡々と語る珠玉のエッセイ。40年前に書かれた本なのに、全く違和感なく読める、現代に生きる女性だけでなく男性も必読の一冊。立風書房から落合恵子訳も出されています。(2004.10.24)


【書籍のご案内・book】

(C)新潮社 
『錦繍(きんしゅう)』

宮本輝・著
新潮文庫/1985年5月発行/定価\438

『前略 蔵王(ざおう)のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。』 愛し合っていながら、ある事件をきっかけに離婚した二人が、十年の歳月を隔て紅葉に染まる蔵王で再会します。女が一通の手紙を綴(つづ)ることから始まる往復書簡形式の小説です。交互に綴られてゆく二人の手紙の中で、過去の出来事と心情が明らかになって行きます。「生きていることと、死んでいることとは、もしかしたら同じことかもしれない。」 「けれども、過去と未来のあいだに《いま》というものが介在していることを、私もあなたも、すっかり気がつかずにいたような気がしてなりません。」 業と運命に翻弄されながら、もがき、苦しみ生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。「錦繍」とは、錦(にしき)と刺繍(ししゆう)をした織物のことで、秋の美しい紅葉をたとえています。(2004.09.05)


【書籍のご案内・book】

(C)新潮社 
『夏の庭』

湯本香樹実・著
新潮文庫/1994年2月発行/定価\400

「ちっくしょう! じじい、よく聞け! オレたちはおまえを見張ってたんだよ! おまえが死にそうだっていうから、見張ってたんだ! おまえがどんな死に方するか、オレは絶対見てやるからな!」。小学6年の夏、木山と山下と河辺の3人は、生ける屍のような老人が死ぬ瞬間をこの目でみたいという好奇心から、 町外れに住むひとり暮らしのおじいさんを「観察」し始める。一方、観察されていると気づいたおじいさんは、憤慨しつつも少年たちの来訪を楽しみに待つようになる。少年たちの「観察」は、いつしか老人との深い交流へと姿を変えていく。歳をとるのは楽しいことなのかも知れない。歳をとればとるほど、思い出はふえるはずなのだから。そしていつかその持ち主があとかたもなく消えてしまっても、思い出は空気の中を漂い、雨に溶け、土に染み込んで、生き続けるとしたら……」。喪(うしな)われ逝(ゆ)くものと、決して失われぬものとに触れた少年たちを描く清新な中編小説。(2004.08.26)


【書籍のご案内・book】

(C)新潮社 
『博士の愛した数式』

小川洋子・著
新潮社/2003年8月発行/定価\1,500

未婚の母として一人息子を10歳に育てあげ、家政婦として働く「私」は、ある春の日、年老いた元大学教師の家に派遣されます。彼は優秀な数学者でしたが、17年前に交通事故に遭い、それ以来、80分しか記憶を維持することができません。数字にしか興味を示さず、80分毎に記憶がリセットされ、コミュニケーションも困難をきわめる「博士」と「私」と阪神タイガースファンの息子「ルート」の3人が織り成すストーリー。現実との接点があいまいで幻想的な登場人物と、完全数や友愛数、巨大素数や双子素数などといった難解と思われる数学の話しが出てきますが、数学の持つ知的で美しい情緒と、静かな中に漂(ただよ)う圧倒的な充実感と幸福感、そして切なさに吸い寄せられるように読みました。芥川賞受賞作家・小川洋子の最高傑作の呼び声高い一冊。(2004.08.18)


【書籍のご案内・book】
『茶の湯の不思議』

小堀宗実・著
NHK出版・生活人新書/2003年(平成15年)7月第3刷/定価¥680

著者は、遠州茶道宗家十三世家元。いただく前に茶碗を回すのはなぜ、お菓子を先にいただくのはなぜ、茶席で扇子を使うのはなぜ、道具を拝見するのはなぜ、茶花と生け花はどう違う、お茶はなぜ一服なのかなど、茶の湯を取り巻く数々のなぞを解き明かしてその本質に迫ります。茶の湯の作法やしつらい、茶室の造りにはすべて理由があり、先達の美意識や精神文化が凝縮されています。手水鉢や飛び石など、茶室の造りは私たちが日常接する建物や住宅にも取り入れられているように、私たち日本人は、無意識のうちに何らかの形で茶の湯の文化や精神と接しながら生活を営んでいると言えます。茶の湯の心得のない本HPの管理者にも平易に読めた本です。茶の湯の精神文化を知る必読の教養書で、現代を心豊かに生きるヒントを与えてくれる本です。(2004.06.13)

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