機械技術者の自己啓発支援講座(第11回)
機械技術者のための
 
工業力学入門
 □ 摩擦力(すべり摩擦力)
機械技術者が日常の業務を進める上で必要となる力学の具体的で実践的な活用方法の習得を目指します。
物と物とが接触して互いに動くとき、接触面に抵抗が生じます。この抵抗力を、摩擦抵抗あるいは摩擦力といいます。機械装置では、あらゆる箇所に摩擦の問題がついてまわります。本号では、すべり摩擦力の定義について理解し、演習問題を通して理解を深めます。

第6章 摩擦力
 接触している2つの物体をその接触面に沿って互いに移動させようとするとき、それを妨げる方向に抵抗力が生じる。これを「摩擦力」という。回転をともなわないで互いに移動させる場合を「すべり摩擦」といい、回転しながら移動させる場合を「ころがり摩擦」という。
 
6.1 すべり摩擦力
 下図に示すように、物体をすべり面に沿って動かしている場合を考える。物体がすべり面を押しつける垂直力をNとすると、物体とすべり面の間に生じる摩擦力f は、下に示す式で示される。物体を摩擦力に打ちかってすべらせるためには、摩擦力f に等しい大きさの力Fが必要である。
         

                            f  : すべり摩擦力(N)
                 f =μN      N  : 物体がすべり面に及ぼす垂直力(N)
                            μ  : 物体とすべり面の間の摩擦係数(−)

すべり摩擦について、経験的につぎのことが知られている。
 
 (1)摩擦力は、物体がすべり面におよぼす垂直力に比例する。
 (2)摩擦力は、接触面積の大きさには関係しない。
 (3)摩擦力は、すべり速度の大きさに関係しない。

 
この法則をクーロンの法則という。この法則が成り立つ摩擦のことを「クーロン摩擦」といい、一般に、すべり摩擦はクーロン摩擦のことである。
 
物体が動きだそうとするときの摩擦力と、動きだした後に生じる摩擦力とでは大きさがことなる。前者を「静止摩擦力」、後者を「運動摩擦力」といい、一般に静止摩擦力の方が大きい。
 
  

〔演習問題〕

【問題6.1】
下図のように、質量m=80kgの物体を水平な床に沿って引っ張って移動させている。つぎの問いに答えなさい。
(1)物体が床に及ぼす垂直力Nはいくらか。
(2)物体と床間の摩擦係数μ=0.15とすると、摩擦力fはいくらか。
(3)物体を動かすのに必要な力Fはいくらか。
                       

〔解答〕
(1)質量m=80kgの物体に作用する重力Wは
       W(N)=質量m(kg)×重力加速度9.81(m/sec2
           = 80(kg)× 9.81(m/sec2
           = 784.8N
   この重力Wが床に及ぼす垂直力Nになるので
       N(N)=W
           = 784.8N
 
(2)摩擦力f =μNであるから、
       f(N)=0.15×784.8(N)=117.72N
 
(3)物体を動かすには、摩擦力f に等しい力が必要であるから
       F(N)=f
           =117.72N
                                     Ans (1) 784.8N、(2) 117.72N、(3)117.72N
 
 
〔演習問題〕

【問題6.2】
下図は、ある装置の回転軸に取り付けてある摩擦ブレーキ装置である。回転している直径D=800mmのブレーキドラムにシューを押し付けて軸の回転を止める。この装置の軸を止めるには、75Nmの制動トルクが必要である。ブレーキドラムとシュー間の摩擦係数を0.3とするとき、ブレーキハンドルに加えるべき力Fの大きさはいくらか。

                       
 

〔解答〕
摩擦力f(N) にブレーキドラムの半径R(m)をかけた値が制動(ブレーキ)トルクT である。すなわち、
                       T(Nm)=f(N)×R(m)
 
従って、必要な摩擦力f は、
                        f(N)=T(Nm)/R(m)
                           =75(Nm)/0.4(m)
                           =187.5N
 
ブレーキドラムを押し付ける力P(N)と摩擦力f(N)の関係は、f =μP であるから、
                        P(N)=f(N)/μ
                           =187.5(N)/
0.3
                           =625(N)
 
ブレーキハンドルに加えるべき力Fと、ブレーキドラムを押し付ける力Pとは、次の関係がある。すなわち、
                        F(N)×a(mm)=P(N)×b(mm)
従って、
                        F(N)=P(N)×b(mm)/a(mm)
                            =625(N)×500(mm)/1200(mm)
                            =260.5N
                                                        Ans 260.5N
 
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