【解説】 PID制御 ~ パソコンによる電気炉制御実験
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1.はじめに 電気炉等の温度をある目標温度に上げ下げしたり、ある昇温曲線に沿って制御したりする制御方式として、ON-OFF制御からPID制御までいくつかの方式がある。制御方式による制御のされ方の違いなどを理解することを目的に、模擬電気炉(半田ごてヒーター)の温度をコンピュータ(パソコン)で制御する電気炉制御装置を用いて、その制御プログラムの作成を行い、各制御方式による制御実験を行なった。 2.電気炉制御装置 用いた電気炉制御装置は、温度検出部として熱電対を使用し、電源として熱電対の先端に100V/15Wの半田ごてヒーターが固定してあり、外乱用としてファンを使用している。8ビットA/D・D/A変換ボードを介して、パソコンへの温度データの取り込みと制御データの出力を行う。パソコンのプログラム言語にはBASICを用いた。電気炉制御装置のデータの流れを図1に示す。0~200℃の温度データと、交流負荷電源(0~100V)の制御データの入出力をいずれも8Bit(0~255)で行なう。 図1 電気炉制御装置のデータフロー |
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3.制御方式 図2に、フィードバック制御系のブロック図を示す。最も単純なオン・オフ制御では、実験結果にも示すようにハンチングが起こり、良好な制御ができない。比例(P)制御を用いればハンチングはなくなるが、比例制御には外乱があるとオフセット(制御を行っても定常的に残る偏差、定常偏差)が生じるという欠点がある。図3は、オフセットの概念を説明する図である。実際に水位(c)が目標水位(r)に等しいので、偏差e(=r-c)は0である。比例制御では、操作量(m)は0となるが、漏れ(電気炉における放熱に相当)等の外乱に対して目標水位を保とうとすれば、m<>0でなければならない。 オフセットを生じるという比例制御の欠点を補うのが積分(I)制御である。積分制御では、制御始め(t=0)からの偏差の時間的和(図4の面積S)を積分時間で割った値を見かけの偏差と考える。 炉の温度制御など制御対象の応答速度が遅い場合に比例制御ゲインが大きいとオーバーシュート(行き過ぎ)を生じ、ゲインが小さいと制御が遅くなる。オーバーシュートなしに速い制御を達成するのに微分(D)制御を用いる。 微分制御では偏差が同じでも、これから偏差が大きくなる方向なのか、小さくなる方向なのか、あるいは変わらないのか、偏差の変化率に応じて一種の予測制御のような制御が行なわれる(図5)。微分制御を取り入れた場合の比例制御の見かけの偏差は、次式で示される。 一般に、比例制御、積分制御および微分制御を併用したしたPID制御が用いられる。PID制御の制御式は、時間に関する微分を表す演算子Dを用いれば(2)式で表され、通常の微分積分表現を用いれば(3)式で表される。、、は、比例ゲイン、積分時間および微分時間である。 4.温度制御プログラム 数値計算で操作量m(t)を計算し、ヒーター温度を制御するプログラムを作成した。プログラムは、まずオン・オフ制御量、比例ゲイン、積分時間、微分時間およびサンプリング時間を入力する。制御方式の入り切りは、ファンクションキーによる割り込みを用い、制御の途中に各制御方式の入り切りが行なえるようにした。式(3)の第2項の積分項は、/・Δt・Σei (繰り返しループによる積算、ei は、繰り返しループ i 番目の偏差)で、第3項の微分項は、・・(e2-e1)/Δt (e2、e1 は、今回および前回のループの偏差)で計算する。なお、Δt は、サンプリング時間である。 5.実験結果 図6に、オン・オフ制御からPID制御までの5つの制御方式による実験結果を示す。実験条件は、オン・オフ量、比例ゲイン、積分時間、微分時間およびサンプリング時間をそれぞれ200Bit、2.3Bit/deg、300sec、15sec、および3secである。制御方式による制御のされ方の違いが実験結果に良く現れている。なお、図6の各図における下段の図は、操作量(制御入力量)の変化を表している。 6.おわりに 5つのグラフを比べてみると、ON-OFF制御のグラフは目標値を境に上がったり下がったりして、それが繰り返される波型のグラフになり、良い制御を行なうことができない。P制御に I 制御を取り入れると、オフセットが改善され、さらにD制御を取り入れると立ち上がりのオーバーオーバーシュートが改善され、PID制御が優れていることがわかる。
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図2 フィードバック制御系 図3 比例制御におけるオフセットの概念 図4 積分(I)制御の意味 図5 微分(D)制御の意味 図6 制御方式による制御動作の違い |