コラム  ・祝婚歌   
 
− 祝婚歌 −
 
       祝婚歌
 
   二人が睦まじくいるためには
   愚かでいるほうがいい
   立派すぎないほうがいい
   立派すぎることは
   長持ちしないことだと
   気付いているほうがいい
   完璧をめざさないほうがいい
   完璧なんて不自然なことだと
   うそぶいているほうがいい
   二人のうちどちらかが
   ふざけているほうがいい
   ずっこけているほうがいい
   互いに非難することがあっても
   非難できる資格が自分にあったかどうか
   あとで
   疑わしくなるほうがいい
   正しいことを言うときは
   少しひかえめにするほうがいい
   正しいことを言うときは
   相手を傷つけやすいものだと
   気付いているほうがいい
   立派でありたいとか
   正しくありたいとかいう
   無理な緊張には
   色目を使わず
   ゆったり ゆたかに
   光を浴びているほうがいい
   健康で 風に吹かれながら
   生きていることのなつかしさに
   ふと 胸が熱くなる
   そんな日があってもいい
   そして 
   なぜ胸が熱くなるのか
   黙っていても
   二人にはわかるのであってほしい
 
        ***
 
   日本の詩人・吉野 弘(1926〜2014年)の詩。
   吉野が彼の故郷である山形県酒田市での
   姪の結婚式に出席できなくなって、
   姪夫婦に書き送った詩である。
   後に彼の詩集に収録されて公表されることとなった。
   吉野は早坂茂三との対談で、
   著作権料が民謡に発生しないことになぞらえて、
   作品の著作権の放棄を示唆している。
   

  2015.08.18
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