コラム  ・初夏の思い出   
− 初夏の思い出 −
 
  §1.今週の努力目標
 
わが家の築山に他の木々に混じって植わっている一本の白梅の実がちょうど収穫時期になったので、先日、定時になるやいなや早々に退社し、ちぎりました。売っている梅のように粒は揃っていませんが、梅酒をつくるのには申し分ありません。この時季になると思い出すのが、昭和30年代の小学生時代のこと。
 
北部薩摩地方の寒村の小学校でしたが、団塊の世代とあって、一学年で 100人以上の児童がいて賑やかなものでした。毎週児童会が開かれ、『今週の努力目標』が決められ、教室の黒板の右隅に板書されていました。
 
野イチゴや木イチゴが実をつけ、梅の実が大きくなるこの時季になると、必ず『今週の努力目標』にあげられていたのが、
 
   雨に濡れない!
   生梅、生イチゴを食べない!
   
でした。そうしないように努力しなさいということですから、野イチゴ類はまだしも、青梅までかじっていたということです。いかにも、昭和30年代の田舎の小学校ならではの『今週の努力目標』でありました。
 
  §2.カーバイドの臭い
 
入梅の時期になると、野イチゴや木イチゴ、青梅などをちぎって食したりして過した小学生時代。高学年になると土曜日の夜、隣近所の兄さんたちが夜釣りに連れて行ってくれました。海から遠い山あいの村ですから川釣りです。
 
大人になってみれば、幅の広くない小川のような川でしたが、身体が小さかった子供の頃の当時は、物が相対的に大きく見えたのでしょう、それなりの川でした。比較的水深のある川淵に糸を垂らして魚のアタリを待ちます。魚のアタリは、釣竿の先端に付けた鈴の音で知るのです。
 
またあるときは、田んぼに設(しつ)えられた稲の苗床に遡上(そじょう)してくるウナギを突きに連れて行ってもらいました。夜釣りやウナギ獲りなどで照明として使ったのが『カーバイドランプ』でした。
 
円筒状の容器が下部と上部の2つの部屋に分かれていて、下部に炭化カルシウム(カルシウムカーバイド)の塊を、上部に水を入れます。炭化カルシウムに水を垂らすと、水との化学反応によってアセチレンガスが発生します。それを火口で燃焼させて灯りを得るのです。刺激臭が鼻をつく独特の臭いがありました。そんなカーバイドの臭いは初夏の思い出の一つです。
 
  §3.曽木発電所遺構
 
カーバイドといえば、どうしても思い出してしまうのが、わが国の近代化学工業の出発点となった曽木発電所のことです。近代化学の父と呼ばれた野口遵(のぐちしたがう)は、1906年(明治39年)に鹿児島県伊佐郡大口村(現、伊佐市大口)に曽木電気株式会社を設立して発電事業を始めました。
 
この発電所は、大口村にあった牛尾鉱山の排水用動力を確保するために建設されたものでしたが、牛尾鉱山の電力使用量が予想より少なかったため、野口は熊本県葦北郡水俣村(現水俣市)に日本カーバイド商会を設立し、曽木電気の余剰電力でカーバイドの製造を始めました。
 
このカーバイド会社が、日本窒素肥料株式会社となり、チッソ株式会社の他に、旭化成工業株式会社と積水化学工業株式会社という日本化学工業界を代表するトップランナーを輩出していきます。
 
6月2日、南九州は梅雨入りしました。梅雨期に入って水位を調整するために鶴田ダム(鹿児島県薩摩郡さつま町)の水が放出され出すと、わが国近代化学工業の出発のモニュメントである曽木発電所遺構が、曽木の滝下流の川べりに姿を現わします。そのセピア色に古ぼけた佇まいは、ヨーロッパの中世の古城を連想させる雰囲気を持っています。 
 
  ・ 曽木の滝と発電所遺構 − 鹿児島県伊佐市
      → http://washimo-web.jp/Trip/Sogi/sogi.htm
 

  2014.06.04 
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