コラム  ・ 俳句の風景 〜 三月   
− 俳句の風景 〜 三月 −
暑さ寒さも彼岸まで。彼岸の中日を過ぎた途端に3月23日の日曜日はぽかぽか陽気に恵まれました。春本番の到来と思うと心もうきうきですが、一方で三月は、卒業、就職、転勤と、別れありの悲喜こもごもの時期です。
 
   来ぬ人を待ちわびし日の花あしび  ワシモ
 
こんな時期に咲いているのが馬酔木(あしび)の花。白色の壺状花を累々と房のように垂れて咲かせます。かわいい花に似合わず有毒植物の一種で、あしび(あるいはあせび)という名は、牛馬が食すると足が痺(しび)れて酔ったようになることに由来します。来ぬ人とは、あるいは3月11日に犠牲になられた人のことかも知れません。
 
著者の職場がある鹿児島県薩摩川内市をはじめ、南九州では各地にカッパ(河童)伝説が伝承されています。また、岩手県遠野には「カッパ淵」と呼ばれる小川の淵があって、柳田国男の「遠野物語」に登場します。かつてカッパが多く住み、人々を驚かしたといいます。
 
   春泥やカッパの手足泥まみれ  ワシモ
 
青森市にお住いのkitaさんから、暖かい日が続いて、雪がどんどん解けています。私のところはまだまだ大量にありますが・・・というお便りを頂きました。
 
春泥(しゅんでい)とは、春のぬかるみのこと。春先は雨量が増え、気温もまだ低いので、土の乾きが遅い。特に凍解・雪解けなどによって生じる泥濘(でいねい)は、人々を悩ませると俳句歳時記(角川書店)にありますが、悩まされるのは人間だけではなさそうです。
 
椿は日本原産の植物で、江戸時代、ヨーロッパから多くのプラントハンターが訪れて当時、爆発的な人気だった椿をヨーロッパに持ち帰りました。学名の「カメリア・ジャポニカ( Camellia japonica)」は、ドイツの宣教師であったゲオルグ・ジョセフ・カメルに由来します。
 
ポルトガルのポルトには、樹齢 300年の古木が「江戸の生き証人」として存在し、ドイツ・ドレスデンのピルニッツ宮殿には、たった一本の江戸椿のために巨大な移動式温室が設けられて大事にされているそうです。
 
   大椿父母のなき家を継ぐ  ワシモ
 
家に植わっている椿の古木が往時の賑わいを偲ばせます。二親が亡くなった家を継ぎましたが、次の代に誰が引き継いでくれるかが問題です。
 
岐阜県にお住いのフーミンさんから、三重県伊勢の英虞湾でアオサノリの養殖風景を見ることができましたというお便りを頂きました。アオサは春の季語で、漢字では、「石蓴」と書きます。
 
   島唄に風のやわらぐ石蓴採り  ワシモ
 
アオサ採りといえば、本メルマガの著者は「むちゃ加那節(うらとみ節)」という奄美の島唄を思い出します。ムチャ加那という女性が美し過ぎたがために、村の娘たちの嫉妬をかい、アオサ採りに誘い出されて海に突き落とされてしまうという物語を歌った唄です。奄美もまたアオサノリの産地です。
 
かつて雪深い地方では、草が萌え出すこの時期になると、冬の間農耕に使用しなかった牛馬を厩(うまや)から引き出して野に放していました。これを厩出(うまやだ)しと言いました。
 
   風が吹く家族総出の厩出し  ワシモ
 
農業の機械化によって牛馬が農耕に使われなくなった現在は、競馬・乗馬用の馬や乳牛などが厩出しの中心になっています。
 
先日、遅まきながら、映画『永遠の0』を観に行きました。原作本で感動して、映画で再感動でした。鹿屋基地が登場しますが、特攻基地といえば、知覧や万世がよく知られているほか、海軍航空隊出水基地(鹿児島県出水市)からも約 200名の若者たちが南洋に散華していきました。
 
その出水では、今、出水平野で越冬した1万羽を超す鶴の北帰行が続いています。北帰行は2月5日から始まり4月上旬まで続きます。
 
   引鶴や落暉の照らす特攻碑  ワシモ
 
落暉(らっき)とは、沈みゆく太陽のことです。
 

  2014.03.26
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